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- アスベスト調査解説 – 法改正、事前調査、分析調査の留意点について-
アスベスト調査解説 – 法改正、事前調査、分析調査の留意点について-
1.はじめに
石綿(アスベスト)は、耐熱性や耐薬品性、経済性等から魔法の鉱物と称され、建材や工業製品等に多く用いられてきた。経済成長期の建築ラッシュに伴い輸入・使用量も増加し、1975 年の「特定化学物質等障害予防規則」改正による規制が始まる直前に最大の輸入量となり、年間およそ 35 万トンに達した。当時石綿を使用した建築物も現在では老朽化が進み、2028 年にその解体がピークを迎えるとされている。
1975 年以降、石綿の製造・使用、建築物の解体・改修工事等に関する規制は次第に整備されてきた。2020 年に「大気汚染防止法」及び「石綿障害予防規則(以下「石綿則」という)」が改正され、事前調査そして作業計画の作成ほか
の規制が強化されて現在に至る。
本稿では、上述の改正のうち主要となる事前調査の改正ポイントを施行年月順に紹介し、併せて事前調査・分析調査の流れや留意点について解説する。
2.事前調査に関する改正点ついて
2. 1 2021 年 4 月から施行
(1)事前調査の方法の明確化(石綿則 第 3 条第 2 項)
明確な規定のなかった事前調査について、設計図書等の文書による確認(書面調査)及び建築物等の目視による確認(目視調査)が明記された。
(2)発注者の責務(石綿則 第 8 条)
情報提供の規定が追加された。即ち発注者は、作業の請負人に対し、石綿等の使用状況を通知するよう努める。それに加えて、事前調査及び作業の記録が適切に行われるよう配慮しなければならない。
2. 2 2022 年4 月から施行
(1)事前調査結果の届出制度(石綿則 第 4 条の 2)
事前調査は結果を、一定以上の規模の工事を行う場合労働基準監督署及び地方公共団体に報告するよう義務付けられた。事前調査は一定規模に満たない場合でも必要だが、報告義務が無く、調査結果の保管義務がある。
一定以上の規模とは次をいう。
- 床面積 80m2 以上の建築物の解体工事
- 請負金額税込み 100 万円以上の建築物の改修工事
- 請負金額税込み 100 万円以上の工作物の解体・改修工事
- 総トン数 20 トン以上の船舶の解体・改修工事
(2)電子情報処理組織の使用
加えて「石綿事前調査結果報告システム」による電子報告も始められた。このシステムはパソコンやスマートフォン等で 24 時間申請ができ、一度操作すれば労働基準監督署及び地方公共団体の両方に報告できる。
2. 3 2023 年10 月から施行
事前調査及び分析調査を行う者の要件(石綿則第3 条第4 項、第6 項)が定められた。すなわち、事業者は、事前調査または分析調査を、厚生労働大臣が定める必要な知識を有する次のものに行わせなければならない。
事前調査
- 建築物石綿含有建材調査者(「特定」及び「一般」の2 種あり)、一戸建て等石綿含有建材調査者
- 2023 年9 月30 日以前つまり義務付け適用以前に(一社)日本アスベスト診断協会に登録されている者
分析調査
- 一般社団法人日本作業環境測定協会(以下「日作協」という)が実施する「石綿分析技術評価事業」により認定される Aランクまたは B ランクの認定分析技術者または定性分析合格者
- 日作協が実施する「アスベスト偏光顕微鏡実技研修(建材定性分析エキスパートコース)」の修了者
- 一般社団法人日本環境測定分析協会(以下「日環協」という)に登録されている「建材中のアスベスト定性分析技能試験(技術者対象)合格者」
- 日環協に登録されているアスベスト分析法委員会認定 JEMCA インストラクター
- 一般社団法人日本繊維状物質研究協会が実施する「石綿の分析精度確に係るクロスチェック事業」により認定される「建築物及び工作物の建材中の石綿含有の有無及び程度を判定する分析技術」の合格者
3.事前調査の流れ
事前調査は、基本的に「書面調査」及び「目視調査(現地調査)」の2つを順に行う。(図 1)
書面調査は、設計図や仕様書等の書面から建築物等の構造や使用されている建材を把握・仮判定する作業である。石綿含有建材と疑わしい部材のリストアップ、石綿含有建材データベースやメーカーのホームページ 等の情報を基に石綿含有有無の仮判定を行う。これらの情報を整理し、目視調査の計画を立てる。
目視調査は、書面調査と現場の情報の整合性を確認し、石綿の含有有無を判定する作業である。建築物の外面だけでなく、部屋を個別に目視確認して調査し、改修の有無や内装材の不燃番号等を確認する。
書面調査及び目視調査を経ても石綿含有有無が判断できない場合、分析調査を行う。ただし、施工状況によりみなし含有つまり石綿が使用されているとみなして扱い、分析調査をしない選択も可能である。
石綿使用が禁止された 2006 年 9 月以降に着工した建築物を除き、書面調査及び目視調査による事前調査が要る。
2006 年 9 月以降着工の建築物も、書面調査による事前調査を行わなければならない。次項に分析調査の詳しい説明を加える。
4.分析調査
4. 1 分析方法
石綿則に基づく分析は「JIS A 1481:2016. 建材製品中のアスベスト含有率測定方法」 に従い行う。なおアスベストを適切に分析するため策定された「アスベスト分析マニュアル」3)も参考にされている。
アスベストの有無及び含有アスベストの種類を同定する定性分析は JIS A 1481-1,-2、同定したアスベストの含有率を求める定量分析は JIS A 1481-3,4,5 にそれぞれ規定がある。(表 1)
JIS A 1481-1 は実体顕微鏡及び偏光顕微鏡を用いる定性分析法である。この方法は、検体を観察しながら分析用試料を作製するため、外壁塗膜など検体が層を成す場合層別の分析が可能である。ただし、検鏡による主観的な観察分析となるため、その精度が分析者の技量に左右される。
JIS A 1481-2 は X 線回折装置及び位相差分散顕微鏡を用いる定性分析法である。X 線回折分析は機器測定のため客観的に判定できる。ただしX 線回折装置を使用する場合、タルクやバーミキュライトなどの天然鉱物を含む建材の分析に注意が要る。多くの天然鉱物がアスベストと同様な化学組成、結晶性などであり、かつ前処理による濃縮が望めず、分析精度に大きな影響を受けるためである。
定量分析は、X 線回折装置と偏光顕微鏡を用いる 2 つの方法に分類されるが、多くの場合前者の JIS A 1481-3 または -5 により行われる。
4. 2 検体採取・依頼方法
検体の採取は、石綿飛散漏洩事故の防止と正確な石綿含有判定のため、次に留意し適切に行う。
(1)呼吸用保護具、手袋、保護衣の着用
- 採取者の暴露を防ぐため、防じんマスク等の呼吸用保護具を着用する。
- 採取中及び採取後の粉塵飛散を防ぐため、使い捨て手袋や表面が滑らかな保護衣服を着用することが望ましい。
(2)採取箇所の湿潤化
- 粉じん飛散を防止するため、霧吹き等を用いて常に採取箇所を湿潤化する。
(3)採取場所ごとの採取用具の洗浄
- 採取場所ごとに用具を水や紙タオル等で洗浄し、他の検体が混ざらないように注意が要る。
(4)表面から躯体接着面までの貫通採取
- 外壁塗膜は改修や塗り直し等により多層の場合がある。躯体(鉄骨やコンクリート等)まで貫通するように採取すれば、正確な結果が得られる。
(5)密封容器への保存
なお当社は、当事者が採取し当社に持込む検体も分析を受託する。この場合、正確な分析や結果報告書作成を行うため「石綿分析試料情報シート( 図 2)」に採取箇所や検体の情報、採取指示者及び採取者情報などの記入をお願いしている。
5.さいごに
改正された石綿関連法及び石綿の事前調査と分析調査について紹介し解説した。軽微なリフォームについても、石綿の事前調査が必要な場合がある。罰則の強化に加えて、なにより工事作業者の健康に影響を与えてしまうため、より一層ご注意いただきたい。
当社は、日作協の「石綿分析技術評価事業」による認定分析技術者・定性分析合格者が分析を実施し、建築物の事前調査を行うことができる建築物石綿含有建材調査者(特定、一般)も在籍している。石綿分析に関するお困りごとがあればお気軽にご相談いただければ幸いである。
[参考資料]
1)環境省 水・大気環境局 大気環境課. 大気汚染防止法が改正されました. 令和5年7月. 2023, 16p.
2)厚生労働省. 石綿総合情報ポータルサイト,改正石綿則のポイント. https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/point/, (参照 2023-12-03)
3)厚生労働省. 石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル,第2版. 令和4年3月. 2022, 156p.
4)環境科学対策センター. 建築物石綿含有建材調査者講習テキスト,第2.10版. 令和3年6月1日, 2021
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