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廃棄物データシート(WDS) の解説

分析事業本部 技術部 試験一課 河村 将和

1.はじめに

皆さんはご自身の住んでいる自治体の生活ごみの分別ルールを正確に把握しているだろうか。近年、リチウムイオン電池の可燃ごみや不燃ごみへの混入が原因で、収集車や処理施設の火災が多発し問題となっている。この5 年の間に火災の原因となるモバイルバッテリーなど充電式のリチウム電池を、東京都品川区そして府中市はじめ単独に分別収集する自治体が多くなった。そして拠点回収する墨田区そして乾電池等と一緒に分別収集する名古屋市や豊橋市などの自治体もある。分別ルールをあいまいに認識したままごみを捨ててしまうと、大きな事故を引き起こしてしまう。

これは産業廃棄物の処理委託でも同様である。むしろ多種多様な化学物質が含まれる産業廃棄物の場合、分別ミスや情報伝達不足が引き起こす事態の深刻さは、家庭ごみの比にならないだろう。全国産業廃棄物連合会の平成17 年の調査は、廃棄物処理の際の火災や爆発等の事故の主な原因が、排出事業者の分別排出の不徹底、廃棄物性状等の情報不足、その情報と廃棄物の不一致にあるとしている。

このような背景から、2025 年4 月に『廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下単に『施行規則』とする)の一部を改正する省令』が公布され、2026 年1 月に施行された。この改正により、排出事業者が把握し伝達しなければならない情報が詳細かつ具体的になった。そこで本稿では、制度の主要ポイントであり、適正な情報伝達のカギとなる「廃棄物データシート(以下「WDS」という)」について解説する。

2.改正の要点

施行規則は、産業廃棄物の適正な処理のため処理委託契約書に記載する情報として、廃棄物の物理的・化学的性状や処理過程での変化、石綿や水銀の含有に関する旨を定めた。加えて改正により産業廃棄物に、第一種指定化学物質が含まれまたは付着する場合、その名称および量または割合の情報提供が必要となった。第一種指定化学物質は、『特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律』(以下『化管法』とする)が定める物質である。

施行規則は、情報伝達の対象を、処理委託しようとする排出事業者すべてとする。一方前述の第一種指定化学物質の情報提供を、化管法の第一種指定化学
物質取扱事業者に適用する。

表1 第一種指定化学物質の例 ※ 1

第一種指定化学物質は、表1に示すように有機揮発性物質や金属・無機化合物、そのほか様々な物質が含まれており、現在515 物質となっている。化管法が定めるいわゆるPRTR 制度の対象要件は、第一種指定化学物質を1%(特定第一種指定化学物質の場合0.1%)以上含む場合である。これほど多くの物質について、具体的な量(割合)まで把握する必要があるとなると、現場の管理にかかる負担は非常に大きい。

3.WDS とはなにか

3.1 WDS の成り立ち

この改正施行規則に対応し、排出事業者から処理業者へ正確に情報を届けるためWDS の活用が不可欠である。
WDS は、今回の法改正で義務化された成分情報はもちろん、その廃棄物が持つ性質や、取り扱う上での注意点を一つにまとめて共有するためのツールである。

WDS の仕組みは、2006 年に環境省が策定した『廃棄物情報の提供に関するガイドライン(以下「WDS ガイドライン」とする)』によって始まった。WDS に記載する内容は後述するが、大まかにいうと廃棄物を安全に扱うための基本情報である。

廃棄物性状等の情報が排出事業者から十分提供されないまたはその情報と廃棄物の不一致があれば、廃棄物処理の際に火災や爆発等の事故の原因となり得るため、廃棄物情報の正確な伝達が求められていた。1998 年から全国産業廃棄物連合会が情報提供の取り組みを始めていたが普及に至らず、廃掃法の委託基準も情報の具体的な内容が不明確などの問題点があった。そのため法令の改正とともに廃棄物の適正処理に必要な情報12 項目を選びその提供のしくみを、ガイドラインとして2006 年に具体化した。ところが次節に述べる利根川水系の事故が発生し、排出事業者と処理業者の情報共有の重要性が再認識されるに至った。そこでWDS ガイドラインを、廃棄物の組成・成分情報、PRTR 対象物質、水道水源の消毒副生成物前駆物質を追加するなど大幅に改訂し第2版を事故の翌年2013 年に発行した。その後見直しがされ、情報伝達の一層の推進を図るため2025 年の施行規則改正による化管法の第一指定化学物質の伝達情報の追加、そしてWDS の様式を変えるなどして同年12 月発行の現第3 版となっている。

前述のとおり改正施行規則は、情報を伝達すべき化学物質として、第一種指定化学物質を対象にした。それは廃棄物処理の際に生じる生活環境保全の支障防止のため、人や生態系に有害である化管法の第一種指定化学物質の情報を伝達するのが良いとされたことによる。さらに伝達に必要な情報がPRTR 制度として把握・管理されているためと考えられたようだ。

WDSは廃棄物の処理を外部に委託する際、契約締結前に排出事業者が処理業者に提供する。また契約締結後も、製造工程の変更などにより廃棄物の成分が変化した場合、その都度最新の情報を再提供する義務がある。

製造現場に関わる方はプロセスの中で化学物質がどう変化し何が混ざり得るのかを経験則として把握しているかもしれない。しかしその情報が正しく伝わらなければ、処理業者はその廃棄物を一般的な分類で扱うしかない。この情報の格差が深刻な事態を招く原因となる。

3.2 情報の格差が引き起こした事例

情報の欠落により広域的な取水障害を起こした事例が、2012 年の利根川水系の事故である。この事故は、利根川水系の複数の浄水場において、水道水から基準値を超えるホルムアルデヒドが検出され、約36 万世帯の断水や取水制限を引き起こした。原因となったのは、上流側で排出された産業廃棄物処理液に含まれた物質「ヘキサメチレンテトラミン(HMT)」である。本事故の特筆すべき点は、排出段階の廃液にホルムアルデヒド自体が含まれていなかったこと。そしてHMT 自体が比較的低毒性な物質であり、当時有害物質であると広く認識されていなかったことである。同様の事故をその9 年前に経験していたとされる排出事業者が該当の処理委託の際適切に情報を提供しなかった。そのため処理業者は十分な処理を行わず排水してしまった。この排水を含む河川水を浄水場が取水し塩素処理される際に、HMT が有害物質であるホルムアルデヒドに変化した。

現在HMT は、化管法の第一種指定化学物質(管理番号258)になっている。今回の施行規則の改正によって、HMT は廃棄物に含まれる場合、その旨に加え量の情報提供が必要となった。さらに水質汚濁防止法の事故時の措置を義務付ける指定物質に追加もされた。今後は利根川水系で起きたような情報提供の欠落による事故を防止できるはずである。

3.3 WDS 作成の実務

WDS は、「廃棄物情報提供に関するガイドライン(第3 版)」(2025 年12 月)に沿って作成するのが一般的である。
このガイドラインは、提供すべき情報を表2 の16 項目に整理している。

表2 WDS 記載事項

この16 項目の中で今回の改正により特に注意が必要なのが、「7.廃棄物の組成・成分情報」である。これまでは主要成分やPRTR 対象物質の有無などが中心であったが、第一種指定化学物質が含まれる場合、その名称と量(割合)の明記が必須となった。

量の算出は実測のほか、原材料や資材等に含まれる対象物質の含有率などを利用して行う。含有量に幅がある場合、平均値などを用いて算出し、その算出根拠を併記する。管理幅がある場合その旨を付記する。(例:12%(平均値)《管理幅:10 ~ 15%》)

図1に当社の廃棄物を対象としたWDS 作成例を示す。
WDS を作成しようとする際の問題は、正確な量の算出方法である。原材料の安全データシート(SDS)を確認すれば、ある程度の目安がつくであろう。しかし実際の廃棄物は、製造プロセスでの加熱によって成分が濃縮されていたり、洗浄工程で他の物質と混ざり合い、組成が原料から変化する場合がよくある。含有の有無や量を曖昧な推測で判断すれば、コンプライアンス上の大きなリスクを孕む。記載不備は、委託基準違反に繋がるリスクがある。形式を整えるだけでなく、いかに根拠のある数字を算出するかが、コンプライアンスにとって重要と
なる。図1 の作成例のように、平均値や管理幅、算出根拠を記載すると、処理業者は安全な処理計画を立てられる。

またWDS の作成は、排出事業者が自社の廃棄物に何がどれくらい含まれているかを、再確認する機会でもある。処理時の事故災害の発生は、情報の有無のほかその正確さによっても支配される。SDS のみに頼るのでなく、必要に応じて信頼できる分析機関による実測データを活用することが、誤った伝達のリスクを回避し、下流工程での事故防止に繋がる。

ガイドラインは、排出事業者と処理業者の双方向コミュニケーションが重要と記載する。排出事業者が良かれと思って膨大な情報を一方的に提供する、逆に処理業者が含有可能性のあるすべての物質の提示を求めるのを、双方にとって過度な負担となると忠告する。

廃棄物の内容により、また委託先の処理業者の処理方法により必要な情報は違う。処理業者も処理を行う上で必要な情報を示し、排出事業者も所有する処理に必要な情報を提供する。ガイドラインがWDS に列挙した情報を、排出事業者と処理業者が打ち合わせる中で絞り込む。何をどこまで伝えるべきか、本当に必要な情報は何なのかを対話を通じて選定することが、実効性のあるWDS 作成の近道となる。

4.おわりに

情報の伝達不十分により、廃棄物の処理をめぐる事故が数多く起きている。廃棄物処理業の火災事故や労働災害は他産業より多いと聞く。廃棄物の適正な情報伝達は、今や単なる事務手続きではなく、処理過程の事故及び広域的な環境事故を防ぎ、企業の社会的信用を守るために非常に重要である。今回の施行規則の改正は、その適正な情報の伝達をより強固にする。

しかし、現場のプロセスを経て変質する廃棄物に対し、515 種類もの対象物質を正確に把握し、WDS を作成するハードルは決して低くない。廃棄物には、原材料のデータだけで捉えきれない濃縮や副生成といった化学変化のリスクが常に潜む。

当社は理化学分析会社として、排出事業者と処理業者の間に立ち、理論上の情報と実際の廃棄物に乖離がないか化学分析によって客観的な情報を提供できる。想定される物質の精密な定量や、どのような物質が含まれているかスクリーニングを行いWDS 作成の一助となれる。

さらに当社は、分析結果に基づくWDS 作成代行も承っている。複雑化するPRTR 対象物質の特定や、根拠資料の整備といった実務的な負担の軽減と支援が可能である。当社の分析技術を、WDS 作成のパートナーとしてご活用いただければ幸いである。

[参考資料]

1)廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和7 年環境省令第15 号)
2)経済産業省.PRTR 制度 対象化学物質.
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/prtr/2.html?utm_source=chatgpt.com(参照2026-05-10)
3)環境省.廃棄物情報の提供に関するガイドライン.https://www.env.go.jp/recycle/misc/wds/index.html(参照2026-05-10)


Author 河村 将和Masakazu Komura

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