- ユニケミートップ
- Uni-Lab(分析技術情報)
- FE-EPMA とイオンミリング装置のご紹介
FE-EPMA とイオンミリング装置のご紹介
1.はじめに
近年、高機能化する塗料材料や微細化が進む半導体デバイス等、進化するナノテクノロジーに対応し、試験・分析機器も進化してきました。その代表的な機器の一つに、金属、セラミックス、電子材料などさまざまな固体材料の評価や研究、品質管理に活用されている電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyser)があります。
当社では従来から活躍している熱電子放出型 EPMA に加え、今年度新たに電界放出型(フィールドエミッション)EPMA(FE-EPMA)を導入しました(図 1)。また、FE-EPMA の能力を最大限に活用するため、試料の前処理装置であるイオンミリング装置も合わせて導入しました(図2)。
今回はEPMA 及びイオンミリング装置の機能、従来型のEPMA と FE-EPMA の違い、これらの装置による分析事例を紹介します。
2.イオンミリング装置
試料の内部構造を金属顕微鏡や EPMA などにより観察・分析するためには、目的の場所の断面を的確に露出させる必要があります。これまで、試料断面の作製は、①試料を目的の場所周辺で切り出す、②樹脂に包埋する、③SiC 研磨紙による湿式法で粗研磨する、④ダイヤモンドペースト等により更に精密な研磨を行う、とする工程の機械研磨でした。
これにイオンミリング装置による前処理工程を加え、高倍率観察及び微小分析に対応し得る断面作製が可能になりました。
イオンミリング装置は、イオンビームを試料に照射しスパッタリング現象を利用して応力をかけずに試料表面を研磨する試料前処理装置です。スパッタリング現象とは、エネルギー及び方向をそろえたイオンビームを試料に照射したとき、試料表面の原子や分子が弾き出される現象です。
導入したイオンミリング装置は、「断面イオンミリング」と「平面イオンミリング」の 2 つの機能を目的に応じて使い分けられます。
「断面イオンミリング」は試料とイオンガンの間にマスク(遮蔽板)を配置し、マスク端面から突出した試料部分がマスク端面に沿って削り取られ、平坦な加工面を作製します。試料の内部構造の積層形状、膜厚評価、内部異物や亀裂、ボイドなどの解析のための断面作製が可能です。
「平面イオンミリング」はイオンビームの中心と試料の回転中心をずらすことにより、直径5mm程度の広い範囲を均一な平滑面に仕上げます。機械研磨の場合、比較的柔らかい試料(銅やメッキ、ハンダ等)は細かい研磨キズが残りやすく、キズを減らすために精密な研磨を長く行うと試料がダレてくるなどの問題がありましたが、平面イオンミリングを短時間行うことにより、これらの問題を解決できます。また、結晶方位の違いや組成の違いなどによるスパッタ速度の違いを利用して凹凸のコントラスト(結晶コントラスト)をつけ、構造を浮き出させた試料断面を作製します。
図3 は機械研磨を施し、1 万倍に拡大した基板端子部断面の銅上のニッケルメッキとハンダの境界部の反射電子組成像です。
細かいキズが多く残っているのが確認されます。この試料に、さらに平面イオンミリングを3 分程度かけたものを図4 に示します。ハンダ部のキズはほぼ無くなり、境界の結晶状物やハンダ部の粒状物が明瞭に観察できます。また、銅の結晶コントラストも確認できます。
3.EPMA ―従来型EPMA と FE-EPMA との違い―
先にも述べましたように、EPMA とは、電子プローブマイクロアナライザ(Electron ProbeMicro Analyser)の略称です。
固体試料表面に細かく絞られた電子線(電子プローブ)を照射し、試料と電子線の相互作用により発生する二次電子や反射電子、元素特有の波長を持つ特性X 線を効率よく検出することにより、
試料の表面形態を観察したり、試料を構成している元素とその量を知ることができます(図5)。
また、図6 にEPMA 内部の簡単な基本構成を示します。
<電子銃>
熱電子放出型と電界放出型(以下FE 型)の違いは電子銃にあります(図7)。熱電子放射型はタングステンフィラメントを通電加熱し、熱の作用でフィラメント(エミッター)から電子を放出します。一方、FE 型は先端を尖らせた酸化ジルコニウム/ タングステン単結晶(エミッター)に強い電界をかけ、電界の作用で電子を放出します。FE型は熱電子放射型に比べて、光源の大きさが遥かに小さいにも関わらずその輝度はかなり高く、電子プローブ径を約1/2 ~ 1/10 に縮小し、高分解能な高倍率像が取得できます。また、その輝度の高さから微小領域において高いX 線強度が得られます。
<検出器>
元素特有の波長を持つ特性X 線を検出する検出器には、WDS(波長分散型)とEDS(エネルギー分散型)があります。
WDS は X 線の回折現象を利用して特性X 線の波長を測定しペクトルを得る分光器です。分光結晶と検出器から構成され、試料表面(X 線発生源)と分光結晶、検出器が円周上に位置しています(図6 ④WDS)。EDS の検出器は半導体であり、検出器に入った X 線は電流パルスとして取り出されます。このパルス波高は入射 X 線のエネルギーに比例しているためエネルギースペクトルが得られ、このエネルギー値から元素を知ることができます(図6 ④EDS)。
WDS の特長は波長分解能が高く、低加速電圧での元素分析や微量濃度の元素が効率よく検出できることです。一方、EDS の特長は少ないプローブ電流での測定が可能なこと、比較的短時間でスペクトルが得られることなどが挙げられます。当社の熱電子放出型EPMA は WDS のみ搭載していましたが、今回導入したFE-EPMA はEDS、WDS ともに搭載しているWD/ED コンバインシステムが採用されており、目的に応じた使い分けができます。また、WDS による面分析(WDS
ではあらかじめ定性分析を行い、面分析をする元素を指定してから分析)を行いつつ同時に EDSによる多元素同時分析を行い、実際存在するのに選択されなかった元素の取りこぼしを防ぐ等の多様な使い方が可能です。
4.分析事例
[ 例1. アルミ缶の外側塗料 ]
図 8、図 9 は清涼飲料水が入っていたアルミ缶の外側断面です。機械研磨後に断面イオンミリング処理を行い、FE-EPMA にて反射電子組成像を観察しています。アルミニウム合金の外側に塗布された塗料の厚さはほぼ10μm 程度となっています。さらに3 万倍まで拡大していくと、アルミニウム合金と塗料の境界に厚さ0.1μm 程度の層を発見しました。プライマー(塗料下地)もしくはアルミニウム合金の酸化皮膜等が予想されます。
[ 例2. 繊維状物質 ]
図 10①は FE-EPMA により二次電子像にて 3 千倍で撮影した繊維状物質です。さらに 10 万倍まで拡大した像が図10②、EDS にて定性分析を行った結果が図 10③です。図 10②の形態から、この繊維状物質は石綿(アスベスト)の一種であるクリソタイルではないかと予想されました。さらにEDS による元素分析を行った結果、Mg(マグネシウム)とSi(ケイ素)の組成比から、クリソタイルであると判定しました。
EPMA で石綿を分析する場合は環境大気中から捕集してきた試料が多いのですが、セルロースエステルやポリカーボネートなど、熱に弱いメンブランフィルター上の非常に細い繊維を計測する必要があります。少ないプローブ電流により、短時間でスペクトルが得られる EDS と FE 電子銃の安定性により、フィルターダメージを最小限に抑えた分析を可能にしています。
[ 例3. 基板端子部 ]
2 項でご紹介した平面イオンミリングを施した基板端子部(図4)をFE-EPMA により2 万倍まで拡大し、WDS により面分析を行いました。また、結晶状物の定性分析を行いました(図11)。
ニッケルメッキとスズ-鉛ハンダの境界に確認される結晶状物は、定性分析の結果、スズとニッケルが多量に検出されました。面分析の結果でも、結晶状物にスズ、ニッケル、一部に鉛の分布が認められます。これより、結晶状物はニッケルメッキから析出してきたと考えられます。面分析は、2 万倍という高倍率でも元素分布が明瞭に確認できます。
5.おわりに
おわりに、イオンミリング装置を用いた前処理とFE-EPMA を用いた観察・分析の有用性を図12に示します。
今回導入した機器の高度な性能を引き出せるのは、使う人間があってこそです。これらの機器の高い性能と当社が築いてきたノウハウや経験を最大限に活かし、お客様のニーズに応えるため試験・分析技術をさらに進化した高度なものにしていきます。
参考文献
1.日本表面科学会:“電子プローブ・マイクロアナライザー” (1999) 日本表面科学会
2.日本電子株式会社 JXA-8530F カタログ
3.株式会社日立ハイテクノロジーズIM4000 カタログ
皆様の記事の内容や分析に関してのコメントをお待ちしております。
※皆様から投稿いただいたコメントは公開させていただいております。
※弊社へのお問い合わせ(非公開)についてはこちらのフォームよりお願いいたします。
※は必須項目ですので、必ずご入力ください。
RANKING 人気事例ランキング
-
1
-
2
-
3
-
4
-
5