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消防官って火事がないときは 何してるの?

技術顧問 火災事故調査専門員 渡邊 勝己

1.はじめに

私は名古屋市消防局に38 年間勤務し、定年退職後、縁あって株式会社ユニケミーの非常勤技術顧問の任に就き、危険物や火災事故に関する知見提供を行っています。

自分が消防官だった頃、ある程度親しくなった相手方から必ずと言っていいほど聞かれたのが「消防官って火事がないときは何してるの?」という質問です。

「火事がないときは暇だからゲームをやったり、小説を読んだり、卓球をやったりしているよ。合間にコーヒーとお菓子を食べてくつろいでいるんだ」と答えてみたいところです。相手の反応も気になりますがね。しかし実際はそんなことはあり得ず、皆さんの期待に応えらえないほど平凡で退屈な答えになってしまうのが残念ですが、これから少々真面目なお話に付き合っていただければと存じます。

2.消防官の身分と職務

消防官は、消防組織法で市町村ごとに設置が義務付けられている消防本部及び
消防署に属する構成員で、いわゆる地方公務員です。

消防の任務は、消防組織法第1条に次のように定められています。
「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から
保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による
被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする」。

簡単に言えば「あらゆる災害の鎮圧• 予防」ということになります。もちろん、
消防組織も一つの事業体ですので、これらの任務達成のため必要な管理運営部門
も消防官が担います。以下に職務の概略を示します。

2.1 災害の鎮圧

火災や、事故による怪我、急病などの日常の差し迫った危機に対応する、消防
隊や救急隊、レスキュー隊、119 番オペレーターといった実動部隊が担う任務です。

2.2 災害の予防

地震防災や火災予防など、災害を未然に防ぐための事業者に対する指導や検査、
市民に対する啓発活動などを行う消防官が対応する任務です。

2.3 管理運営

消防の目的である災害鎮圧・予防を実現するための企画・経理・人事といった管理部門や各事業部門の企画運営を司る部門も消防官が対応します。

3.出動の頻度と勤務体制

社会環境の変化によって、名古屋市の火災出動件数は減少傾向にありますが、救急出動件数は増加傾向にあります。

3.1 火災出動 1)

地域差もありますが、1当番で1度もないこともありますし、2,3回出動することもあります。名古屋市の年間の火災件数は、約50年前に1,800件ほどだったのが近年500件程度にまで減少しています。これは、事業所に対して一定の消防用設備の設置を義務付け、消防査察を定期的に行うなどにより事業所火災が減少したこと。加えて、一般住宅の建て替えにより防火性能が向上し、住宅用火災警報器の設置を義務付けたことが功を奏しているといえるでしょう。

3.2 救急出動 2)

7,8件から多いところでは20件に達する消防署もあります。1件の救急出動に1時間くらいかかるとすると20件に対応するため仮眠もとれずフル活動している場合もあるということです。名古屋市の年間の救急件数は、30年ほど前に5万件程度だったのが、高齢化社会や気候変動の影響などにより、近年15万件を超えている状況です。

3.3 勤務体制

災害の鎮圧に365 日24 時間カバーする必要があるため、24 時間シフトの交代制勤務(隔日勤務)で対応しています。一方災害の予防や管理運営を担当する消防官は毎日勤務(いわゆる「日勤」)です。

火事がないときに何をしているのかといった皆様方の素朴な疑問は、実動部隊の消防官が対象と思いますので、以後交代勤務に就く消防官を中心に紹介していきたいと思います。

4.消防官の一日

交代勤務に就く消防官の一日( 例) は次のとおりです。

ヘリ訓練
消防救助隊時代

5.団体業務と個人業務

交代勤務に就く消防官は火災や救急などの指令が入れば直ちに出動しなければなりません。出動指令から概ね1分以内に車両に乗り込み発車できるように常日頃から訓練しています。そうした災害出動や訓練はチームで行動するため団体業務に位置付けられます。訓練は主に災害を想定したチーム活動の向上や複数の部隊との連携を強化、隊員個々の役割や技量確認などのために行われます。

一方、各個人は担当業務が割り振られており、主に夕食後から仮眠まで個人業務としてその仕事に従事します。個人業務には次のような仕事があります。

・訓練計画の作成
・車両や装備品の点検・管理
・勤務編成の調整などの人的管理
・火災原因の調査及び報告書の作成
・消防団との連携に関する企画調整
・消防団員に対する訓練指導
・地域防災強化に関する企画調整
・町内会組織との連絡調整

など様々な分野に及んでいます。

これらの業務が割り当てられ、それぞれ消防官は個人業務として従事します。担当業務により業務密度の濃淡があり、夕方以降の時間帯のみでこなせない状況も生じて、日中の訓練時間を充てたり仮眠時間を削らざるを得ない場合もあるようです。

また、消防活動に不可欠な体力の維持・向上のため、勤務時間中の体力錬成も認められており、トレーニング器具を備えた専用室が消防署に設けられています。

6.消防官に必要な国家資格の取得

消防官の職務遂行に必要な主な国家資格として、次が挙げられます。

・運転免許(大型・中型・普通、普通自動二輪など)
消防車を運行するため自動車免許が必要です。消防車として一般的なタンク車は中型免許、はしご車やクレーン車などは大型免許が必要です。ちなみに救急車は普通免許で運行できます。名古屋市では消防用自動二輪車、いわゆる「赤バイ」も運行しているので、この場合普通自動二輪車免許が必要となります。

・船舶操縦免許
水難救助のため小型船舶を運行する場合2級小型船舶操縦免許が必要です。

・無線従事者免許
災害現場では主に無線機を使用して通信するため必須資格です。入庁後全員取得します。

・救急救命士
救急現場において心肺停止患者に器具を使った気道の確保や点滴を施したりといった医療行為を実施するため必要です。主に内部養成するとともに、資格を持って入庁する者もいます。

また、これら以外にも業務上必要な資格を必要に応じて随時取得していきます。その他、特殊なケースとして、消防用ヘリコプターを運行する航空操縦士や航空整備士は主にその資格を有する者を採用して確保するなどしています。

7.管轄地域外への災害派遣

管轄する地域の外で災害が発生し、それがその地域の消防機関で対応できない規模である場合、県内の消防機関により緊急消防援助隊を即時に結成して災害応援に行くことがあります。愛知県が派遣した災害に東日本大震災や御嶽山噴火災害、熱海の土砂災害、能登半島地震などがあります。

東日本大震災では宮城県の被災地対応のほか、名古屋市単独で福島原発の注水作業に派遣されました。余談ですが、私がこの原発派遣の実質的な派遣責任者を担うことになりました。派遣隊員の選定にあたって被ばく危険があることから、独身者やすでにお子さんがいる妻帯者から派遣希望者を募り派遣しました。皆無事
に帰還しましたが、その特攻隊員を送り込むような辛さと申し訳なさが職場を退いた今でも拭えません。しかしその後御嶽山噴火災害に派遣され、危険に晒された山頂で活動したときようやくわずかばかりの禊を果たした思いでした。

御嶽山噴火災害派遣

8.おわりに

前述したとおり消防官も正規の公務員なので、それなりに忙しい毎日を送っていることを知っていただけたのではないかと思います。

子供たちへ職業紹介をする時は、よく「ウルトラマン」に例えたりしました。火災や事故があればどこからともなく現れ、活動が終わればさっさと帰っていく正義の味方のような存在だと。

南米のチリでは、消防業務をボランティアで担っており、消防官になるため就職してお金をため、必要な装備(活動服や無線機)を自前で揃えて志願するそうです。なぜそこまでするかというと消防官は社会的ステータスがとても高く、人生のキャリアの勲章となるからだそうです。

我が国の消防官も一時期は結婚相手にしたい職業ナンバー1に輝いたこともあったようですが、危険を顧みず人の命を守るといった単純ですが崇高な使命を帯びているからこそ周りから温かく評価されているのだと思います。

私は既に消防官を退職した身ですが、後輩たちにこの崇高な使命を帯びた職業に誇りを持ち、それに相応しい人格形成を怠らないように精進していただきたく、これからも応援していきたいと思います。

[ 編集委員会注]

-執筆者略歴-
1985 年 名古屋市消防局入庁
2018 年 消防学校 消防研究室長
2020 年 昭和消防署長
2021 年 熱田消防署長
2023 年 定年退職
現在   株式会社ユニケミー 技術顧問

[参考文献]

1)名古屋市統計年鑑.火災の発生状況の推移(昭和26 年以降). https://
www.city.nagoya.jp/shisei/toukei/1003703/1003773/1004084/1004085.html (参照2025-11-6)
2)名古屋市統計年鑑.区別救急活動状況.https://www.city.nagoya.jp/shisei/toukei/1003703/1004106/1034300.html 
(参照2025-11-6)

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