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実務者による 引火点試験解説

1.はじめに

 引火点は、消防法の危険物確認試験及び国連勧告及びGHS に基づく危険物分類、SDS 記載項目のほか、製品開発に係るデータとしても用いられ、物質の重要な特性の一つである。引火点試験は、JIS( 日本産業規格)にその基本的な操作が示されている。ただし実際に試験を行う際、試験対象試料に適切な測定方法の選択そして引火の有無判断など、試験者の経験と技量に委ねられる判断がある。そこで本稿は、試験実務者の立場から実際に測定する場合に必要な注意点や判断及び手順を加え、引火点試験について紹介する。引火点試験に関わる方の参考となれば幸いである。

2.引火点(flash point)

 引火点とは、JIS K2265-1 の3.1 項に「規定条件下で引火源を試料蒸気に近づけたとき、試料蒸気が閃光を発して瞬間的に燃焼し、かつ、その炎が液面上を伝播する試料の最低温度を101.3kPa の値に気圧補正した温度」とある。つまり火種となる引火源(試験炎ともいう)により、瞬間的に燃焼するが継続しない最低温度を言う。  
 引火点の試験方法は、密閉状態の試料を試験する「密閉式」と、外気に触れる開放状態に置き試験する「開放式」に大別され、4 種類がJIS に規定されている。その4 種類の試験方法を手順なども加え以下に紹介する。

引火点動画

タグ密閉法
 密閉式の試験方法であり、比較的引火点の低い試料を測定する。当社は、引火点が-10℃以上93℃未満の液体試料を対象にしている。
 試験方法:試料50mL を試料カップに入れ密閉し加熱する。一定の温度間隔で引火源(試験炎)を試料カップにのぞかせ引火の有無を確認する。

図1 タグ密閉式引火点試験器

迅速平衡密閉法
 密閉式の試験方法であり、唯一固体試料の測定が可能である。当社は引火点が室温~ 300℃の範囲の液体試料及び固体試料を対象にしている。
 試験方法:試料2mL または4mL を、密閉した試料カップに入れ、一定温度に保つ。規定時間経過後、試験炎を試料カップにのぞかせ、引火の有無を確認する。この操作を、温度を変えて繰り返し、引火が確認される
最低温度を求める。

図2 迅速平衡密閉式引火点試験器

ペンスキーマルテンス密閉法
 密閉式の試験方法であり、試料をかき混ぜながら測定できる特徴がある。そのためカップ内の試料温度にムラができにくく、粘度の高い試料も測定できる。当社は引火点が室温~ 400℃付近の範囲の液体試料を対象としている。
 試験方法:約70mL の試料を、試料カップに入れ密閉し加熱する。加熱中は継続的にかき混ぜ機により試料をかき混ぜる。一定の温度間隔でかき混ぜを止め、同時に試験炎を試料カップにのぞかせ、引火の有無を確認する。

図3 ペンスキーマルテンス密閉式引火点試験器

クリーブランド開放法
 開放式の試験方法である。当社は80 ~ 400℃付近までの液体試料の測定が可能である。
試験方法:試料約80mL を試料カップに入れ開放したまま加熱する。試料カップ上を規定の温度間隔で試験炎を通過させ、引火の有無を確認する。

図4 クリーブランド開放式引火点試験器

 紹介した4 種類の試験方法を当社の情報も併せて表1 にまとめた。

 試料により測定方法がJIS 等に規定される場合もある。例えば重油は、JIS K2205 がペンスキーマルテンス密閉法を指定している。しかし、廃棄物や自社製品など測定方法が定められていない場合、予測される引火点及び試料が固体か液体なのか、粘度の高い低いなどの試料の状態により適切な方法を選択する。
 同一試料であっても試験方法により測定値は異なる。例えば、開放式と密閉式で同一試料の引火点を比較すると、密閉式の方が低くなる傾向にある。

3.試験の実際

引火点測定の流れ(タグ密閉法の場合)
 前述の試験方法のうちタグ密閉法を例に、引火点測定の流れを説明する。(図5)
 まず、予期引火点を設定する。予期引火点は、実測前に予想した引火点温度であり、実測値を評価する重要な指標となる。試料の引火点がおおよそ分かっている場合その値を予期引火点とする。分からない場合試料の外観、臭い、組成などの情報から予測し予期引火点を設定する。試料の少量を採り、火種を近づけるな
どの簡易的な確認試験を行うこともある。
 試料を設定した予期引火点より11℃以上低い温度に冷却する。冷却には冷蔵庫や冷却機を使用する。
 冷却した試料を試料カップに入れ加熱を始める。試験器は、密着した蓋が試料カップを密閉しているが、測定時に蓋ののぞき孔及び通気孔が開く。予期引火点より5℃低い温度に達したら、定められた温度間隔で、試験炎を近づけのぞき孔からのぞかせる。
引火を確認したら温度を測定引火点として記録し、加熱をやめる。そして測定引火点が予期引火点の±2℃の範囲にあればその値を採用する。それらの差が2℃を超えた場合、予期引火点を再設定し新しく試料を採り試験をやり直す。
 測定は試料が少量しかないなど特別な場合を除き通常2 回行うが、測定した引火点のばらつきが大きい場合、さらに繰り返すこともある。最後に測定引火点を大気圧補正し試験結果として報告する。

図5 引火点試験方法の手順( タグ密閉法)

引火点が認められない(測定中止になる)場合 
 引火点測定中に次の事象が発生した場合、測定を中止する。その場合、「引火点は認められない」の結果とする。(図6)
①測定中に試料が沸騰し、規定の昇温速度を維持できない場合。
②測定中に試料がカップから吹きこぼれた場合。
③近づけた試験炎が上方へ燃え上がるもしくは消失する場合。(この現象は、試料から不燃性ガス等が発生するためと考えられる。)

図6 測定中止パターン

4.引火点試験の注意点

 引火点試験は前述の通り、引火性の試料を意図的に加熱して蒸気を発生させ、実際に引火させて、引火点の有無を確認する。このため試料によっては、有害なガスが発生する、爆発する、燃焼するなどの危険性があり、試験者の安全面に留意する必要がある。試料が強酸性の場合、試料カップ及び熱電対が腐食するおそれがあるなど、試験機器の適用可否も検討しなければならない。
 事故を未然に防ぎ、安全に試験を実施するため、試料情報の入手が必要不可欠である。試料情報は、試料組成(SDS、製造フロー、製品レシピ、原材料名など)、予想引火点、試験依頼の背景などを含む。また、試験者が発生蒸気に暴露されないよう排気設備を備え、万一の事故に備えて消火クロスや消火器を配置するなど、安全対策も重要である。

5.終わりに

 当社は、引火点試験受託によるデータ提供の他に、御依頼企業様が自社で試験実施できるよう内製化支援業務も行っております。試験機器の選定から機器操作まで、幅広くコンサルティングいたします。危険性評価や製品開発の工期短縮と経費低減に寄与できれば幸いに存じます。

[参考資料]

1) JIS K 2265-1:2007. 引火点の求め方-第1部:タグ密閉法.
2) JIS K 2265-2:2007. 引火点の求め方-第2部:迅速平衡密閉法.
3) JIS K 2265-3:2007. 引火点の求め方-第3部:ペンスキーマルテンス密閉法.
4) JIS K 2265-4:2007. 引火点の求め方-第4部:クリーブランド開放法.
Author 大森 広高  宇田 貴尋Hirotaka Omori Takanori Uda
Comments みなさんのコメント
阪口昌孝

試験炎と油面の距離(高さ)によって数値が異なると思うのですが、これについて正確な規定(世界基準値)はあるのでしょうか。あれば何mmなのか教えて下さい。宜しくお願いします。

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