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表面分析の概要
1.はじめに
近年、製品開発や不具合の対応などで表面や界面の構造・組成の把握は益々重要になっており、様々な表面分析方法が用いられます。
しかし、それぞれの表面分析の特性がわからず、どの分析方法を採用したらよいのか多くの人が難しいと感じているのではないでしょうか。そこで、表面分析の基礎の基礎として、代表的な表面分析であるEPMA やAES、XPS、SIMS、TOF-SIMS を簡潔に解説します。
知らない人にボールをぶつけたとします。すると多くの場合、何らかの反応があります。「危ねえな!コラ!(怒)」とすごい剣幕で怒りだしたら、その人は短気な人だろうと推測できます。
逆に「危ないからダメだよ~」と穏やかに言う人は優しい人かなと思いますよね。(図1)
表面分析も同様に、試料に刺激を与えその応答を検出・解析して分析します。表面に与える刺激をプローブといい、その結果表面から放出される応答をシグナルといいます。プローブは電子やイオン、X 線等が用いられ、シグナルも電子やイオン、X 線等として検出し分析します。
表面分析は試料表面におけるプローブの大きさ、侵入深さ、発生するシグナルの脱出深さにより、測定深さや空間分解能(平面方向の大きさ)が異なります。また、試料を損傷しやすいプローブもあります。これらの違いを考慮し、試料や目的に適した分析方法を選択します。
2.表面分析の種類と特徴
代表的な表面分析法の特徴を表1 に示します。
2.1 EPMA(電子プローブマイクロアナライザー:Electron Probe Micro Analyzer)
扱いが比較的容易で二次電子像※4 が得られ、線分析※5、面分析※6 が可能なため、データの解釈がしやすいオールラウンドな分析方法です。ただし、他の表面分析と比べて検出深さ(表1※2 参照)が深いため、例えば検出深さより薄い付着物を分析した場合に内部(母材)の情報を含むなど注意が必要です。
※4:試料より放出される二次電子から得られる像。試料の形状を明瞭に観察できるため、分析箇所や状態を確認しながら分析を進められます。
※5:直線上にある元素の分布を確認できます。(図3)
※6:線分析を何本も引き(走査)、ある範囲内(面状)の元素分布を確認できます。
2.2 AES(オージェ電子分光法:Auger Electron Spectroscopy)
空間分解能(表1 ※3 参照)が高いため、微小分析に有効です。プローブとして用いる電子線により帯電するので導電性のある試料に適しています。また、イオンスパッタリング※7 で深さ方向の分析(表面から内部方向の組成変化把握)が可能です。
※7:原子をイオン化して試料に衝突させ、試料の原子又は分子を弾き出させることをいいます。スパッタリング(試料の表層を削り取る)と分析を繰返して深さ方向の組成が得られます。(図4)
2.3 XPS(X 線光電子分光法:X-ray Photoelectron Spectroscopy)
化学状態(表 1 ※1 参照)を知りたい場合にお勧めの分析方法です。X 線を照射する XPS は、帯電の影響が少なく分析の対象を広げられるため、絶縁物や有機物にも対応が可能となります。ただし、空間分解能が低いため微小領域の分析は注意が必要です。また、イオンスパッタリングを用いて深さ方向の分析も可能です。
2.4 SIMS(二次イオン質量分析法:Secondary Ion Mass Spectrometry)
SIMS は試料表面にイオン(一次イオンという)を照射しスパッタリングによって放出されるイオン(二次イオンという)を質量分析するため、非常に高感度(ppm 以下も可)であることが大きなメリットです。また同位体分析※8 も可能です。さらに、空間分解能も高いため微小領域の分析にも適しており、半導体試料などの深さ分析で多く用いられます。
※8:同じ元素でも質量数が異なるものをいいます。原子核中の中性子の数が異なるためです。
2.5 TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)
TOF-SIMS は試料表面に一次イオンを照射し、放出される二次イオンが検出されるまでの飛行時間を測定してその時間差から質量を分析します。SIMS と比べてマイルドな一次イオンを照射するため、SIMS より若干感度が低下しますが(ppm オーダー)、他の表面分析と比べると飛びぬけて高感度な分析方法といえます。SIMS 同様、微小領域の分析も対応できます。
また、試料の損傷が少なく壊れやすい有機物の分子情報も得られます。例えば表面に付着した有機物を分析する場合、マイルドなイオン照射のためその表面付着物はそのままイオン化(分子イオン)して、又は部分的に結合が切れたフラグメントイオンとして放出されます。イオンビームの照射量を多くすると(SIMS に相当)有機物は破壊され、分子イオンやフラグメントイオンとして検出されなくなるか又は大きく減衰されます。
イオンビームの照射量が少ない TOF-SIMS ですが、絶縁物を分析する場合スパッタリングで放出される二次電子の影響でその試料表面は正に帯電します。そうした場合、帯電中和銃を用いると測定が可能となります。
ほとんど良いことづくしの TOF-SIMS ですが、定量分析は困難を伴います。定量分析は二次イオン化率が条件により大きく変化するため、測定する試料ごとに表面濃度がわかっている標準試料を用意しなければなりません。しかし、そのような標準試料を作製する方法が確立されておらず、TOF-SIMS の定量分析は容易でありません。
3.おわりに
各種表面分析の概要を解説しました。少しでもイメージをつかんでいただけたでしょうか。各分析法の長所・短所をよく把握し、適切な分析方法の選択の一助にしていただければ幸いです。本稿は各分析法の原理の解説を割愛しましたが、興味をお持ちになったら下記の参考文献をご覧下さい。
参考文献
1.日本表面科学会編:“電子プローブ・マイクロアナライザー” (1998) 丸善
2.日本分析化学会編:“分析化学実技シリーズ応用分析編1 表面分析” (2011) 共立出版
3.山科俊郎、福田伸:“表面分析の基礎と応用” (1991) 東京大学出版会
4.日本表面科学会編:“オージェ電子分光法” (2001) 丸善
5.日本表面科学会編:“X 線光電子分光法” (1998) 丸善
6.D. ブリッグス、M.P シーア“表面分析:SIMS” (2004) アグネ承風社
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