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定性分析において、試料汚染が 分析結果に与える影響

 弊社の根幹を成す業務のひとつに、材料分析がある。その中でもトラブル解決、生産性向上、研究開発の一助等、材料分析により情報を得ようとするニーズは多くなっている。その調査の際、先ず実施される定性分析において、試料汚染が分析結果に与える影響について紹介する。

1.調査の対象と定性分析

 材料分析は、成分分析、不純物分析、表面分析、腐食分析をはじめ品質分析、製品異常の分析として実施されるが、いわゆる理化学分析、定性分析や定量分析を応用して行う。調査の対象は、表1に示されるものが多く、こうした未知の物質がどのような成分から構成されているかを知るため、先ず定性分析を行う。
定性分析は、用途や目的によりさまざまな手法、そして機器を使い分ける。

 例えば、製品内に外観を損なうような異物がみられた場合、 その異物が何かを特定し、特定された成分から混入経路・混入原因を究明し、改善するという流れになる。異物が何かを正確かつ迅速に把握する(定性する)ことは、トラブル解決に向かう大切な第一歩と言える。

試料汚染調査対象
表1 調査の対象

2.試料の採取

 調査の対象は、そのまま分析可能な場合もあるが、付着している、埋没している、サイズが大きくて分析機器内に入らない等であれば、事前に分析の試料を取り出す準備(前処理)が必要な場合がある。その代表的な採取方法を適用される調査対象毎に表2に示す。

 試料採取は、ピンセット、ナイフ、金属針、はさみ、ペンチ、ドリル、切断機、研磨機などを用いる。採取した試料は、分析を行うまで汚染されないように保管する必要がある。

試料採取の方法
表2 試料採取の方法

3.試料の汚染・変質

 採取した試料は、分析実施前の保管時、輸送時、そして分析時にも汚染されるなどして変質していく。汚染源として考えられる代表例及びその汚染・変質の例を次に示す。

(1)雰囲気

 調査対象のおかれた環境、輸送時の環境、分析室の環境をいう。これらの環境は前処理及び分析に影響する。

・空気、水分、腐食性ガス(温泉地帯、排気ガス等)、塩害(船、海浜地帯等)など
・大気中に浮遊する元素:Fe,Al,K,S,Cl,Na考えられる汚染及び変質として、材質外元素の吸着・反応、酸化・腐食、吸湿、潮解などが挙げられる。

(2)ヒト 

 前処理はほとんどヒトの手で行われるため、一番の汚染源となり得る。頭髪、汗、唾液、手が考えられる。頭を掻かない、汗の出ないような温湿条件にする、話をしない、プラスチック手袋をする、化粧やマニキュアをしない等の注意が必要となる。当然であるが素手で試料を触れてはならない。

・指紋(皮脂):C,Ca,P,S,K,Na,Cl等の生体由来の元素
・タバコの葉:C,Al,Mn,Ba,Sr,Zn等のタバコに含まれる元素。Znはタバコの煙中に多く含まれる。

考えられる汚染及び変質は、指紋痕の付着、皮脂ほか炭化水素の付着、塵の付着、染み、変色、損傷、酸化・腐食、材質外元素の付着などが挙げられる。

(3)試薬

 分析に使用する試薬中に混在した不純物の影響を受ける。分析の目的に従い、含まれる不純物が少ない試薬を使わねばならない。分析の対象が試料にパーセントの単位で含まれる場合と百万分の一単位で含まれる場合では、用いる試薬が異なる。

(4)分析容器、分析器具

 環境及び洗浄などにより汚染された器具からのもらい汚染が考えられる。汚染されたフラスコやピペットなどの分析器具の使用や、超純水製造装置の異常による汚染水の使用からの二次汚染等が考えられる。

環境及び洗浄などにより汚染された器具からのもらい汚染が考えられる。汚染されたフラスコやピペットなどの分析器具の使用や、超純水製造装置の異常による汚染水の使用からの二次汚染等が考えられる。

4.試料汚染が分析結果に与える影響

 定性分析を行うにあたり、通常、現場と分析施設が離れているため、現場に存在する試料は何らかの方法で分析施設まで運搬される。その際注意したいのは、採取方法や梱包材の選択である。試料が汚染された場合、微小物質であれば正確なデータが得られない場合も生じる。高精度で迅速なデータを得るため、汚染及び変質を最小限に抑えねばならない。試料汚染や変質を招く5つのケースを簡単に紹介する。

ケース1 金属試料表面を素手で触った場合

・Ni板の清浄部と、指で軽くつまんだ部位(汚染部)との EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)による元素成分比較結果(半定量値)を、表3に示す。

・清浄部と比較して、汚染部から炭素が多量、腐食促進元素である塩素、硫黄が検出される。これらの元素は、ヒトの手の皮脂や、手に付着していた異物(ハンドクリームなど)由来であると思われる。

・分析目的によるが、可能であれば、試料表面は有機溶媒で軽く洗浄してから分析する。しかしながら、皮脂由来の腐食成分が長時間残留すると、金属表面が変色、腐食する場合もある。

元素成分比較結果
表 3 元素成分比較結果

ケース2  微小試料を粘着剤で固定した場合

・微小粉末をセロテープで採取した状態を図1に示す。

・微小試料を粘着剤から完全に分離するのは、紛失等の恐れもあり、非常に困難である。SEM(電子顕微鏡)の画像では、微粉末が粘着剤中に埋没している。

・微粉末が金属粉等の無機成分のみの場合に限り、EPMAによる元素分析が可能となる。

しかし、有機成分が混在、あるいは有機成分のみであり、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)分析を行う場合、粘着剤の影響で対象試料の成分の測定が困難になる。

微笑粉末採取状況
図 1 微小粉末の採取状況

ケース3 金属表面の微量付着物を直に樹脂製袋(チャック付ポリエチレン袋)に入れた場合

・金属等の表面に付着した油状物などを溶剤抽出して定性分析する場合、FT-IRでは樹脂製袋に含まれる添加剤の成分が検出され、評価に影響を与えることがある。

・図2、図3は、ポリエチレン袋の滑剤として含まれる脂肪酸アミドの赤外吸収スペクトルと直接ポリエチレン袋に入れた金属部品から得られた赤外吸収スペクトルである。ポリエチレン袋の影響がわかる。

・油分定量の場合、赤枠で囲った吸収の吸光度を測定するため、ポリエチレン袋の影響で実際の油分量より大きい結果になることがある。

脂肪酸アミドの赤外吸収スペクトル
図2 脂肪酸アミドの赤外吸収スペクトル
直接ポリエチレン袋に金属部品を入れたサンプルの赤外吸収スペクトル
図3 直接ポリエチレン袋に金属部品を入れたサンプルの赤外吸収スペクトル

ケース4 加熱発生ガスを調査する試料を樹脂製袋(チャック付きポリエチレン袋)に入れた場合

・これは【ケース3】と同様の梱包を行い、GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)による試料の加熱発生ガスを調査する場合である。

・樹脂製袋に試料が直に触れると、袋内部及び内側の成分が試料に付着し、先述した脂肪酸アミドなどの袋由来の熱分解物が、試料加熱発生ガスと一緒に検出されてしまう。

ケース5 潮解性の高い試料の結晶構造を調べる場合

・潮解性とは、常温空気中に放置すると空気中の水分を吸収し、水溶液となる性質を言う。

・潮解性の高い塩化マグネシウムを、空気中に放置した後のXRD(X線回折装置)のスペクトル変化を下図に示す。

・塩化マグネシウムが減少する一方水和物の増加から、2時間で潮解が進んだ様子が伺える。

塩化マグネシウムの XRD スペクトル
図 4 塩化マグネシウムの XRD スペクトル

以上、5つのケースをご紹介したが、試料汚染や変質を最小限に抑えるために必要な方法を以下にまとめた。

(1) 試料の測定面を素手で触らない。手袋をしたうえで、清浄なピンセットや薬さじなどを用いて取り扱う。
(2) 試料の固定や保護に粘着テープを使用しない。付着物が極微小な場合、母材全体をアルミホイルに包むか付着物を拭い取る。分析対象がアルミニウムや金属の場合は薬包紙を用いる。
(3) 試料の測定面が樹脂性容器に接触しないようにする。接触が避けられない場合は、分析対象をアルミホイルや薬包紙で覆う。
(4) 試料は密閉容器に入れる。潮解性のある試料の場合は乾燥剤があると尚良い。

5.終わりに

 微小物質や微量付着物といっても、どの位までが微量かなど、なかなか判断が難しい場合が多いかと思う。弊社に気楽にご相談くだされば、分析のプロ集団が誠心誠意対応させていただく。
 試料汚染を最小限に抑えることは、正確なデータを迅速に導き出すために最も効果的であることをご理解いただければ幸いである。

参考文献

1. 広川吉之助(1985).固体表面分析における汚染.ぶんせき(3),pp.157-161
2. 米森重明(2015).化学分析・評価の現場実務.日刊工業新聞社,pp162-163
Author 山田 麻紀Yamada Asaki
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