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水道水及び給水資機材等の浸 出液の臭気分析について

1. はじめに

 日本では普及率が98% となった水道水を、飲料水などとして日常用いている。水が無ければ生命を維持できない我々の健康にとって水道水の水質は重要であり、厳格な管理が必要である。そして水道水は、水道水源から浄水場、送水配管、貯水槽そして水道の末端の給水栓に至る経路を通して供給される。そのため水道水を供給する器具、経路などから溶出する成分も水質に影響を及ぼすため、併せて管理することが求められる。

 それらは厳しい基準で規制されており、カドミウムや鉛、水銀などの重金属類、消毒時に生成するクロロ酢酸を始めとするハロゲン系の有機物や人の五感に係る味や臭気など多項目に渡る基準が設けられる。水道水は51 項目の基準があり、その全てに適合する必要がある。


 その項目は多くが「0.01mg/L 以下」のように濃度として基準値を設ける。そうした項目は、ICP 質量分析計やガスクロマトグラフ質量分析計などの分析装置を用い測定し、基準に適合かどうかを判断する。一方濃度で定めない「臭気」と「味」の項目は、実際に試験者が臭いを嗅ぐ、口に含むなどして試験を行い判断する。

 臭気や味は、異常を摂取直前あるいは直後に察知でき、健康に被害が及ばない場合でも直接不快感を与えてしまうため、重要な試験項目といえる。
本稿は水道水等に関する法令や規格を紹介するとともに、それら法令等に定められた官能試験項目の一つである「臭気」について試験方法を解説する。

2. 法令及び規格

 水道水質の検査/試験/分析に関連する法令及び規格を以下の2.1、2.2に整理する。また、図1 にそれぞれの法令及び規格及び水道水又は水道の概念図を示す。

2.1 水質検査方法に関する法令等

① 水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(平成15 年7 月22 日厚生労働省告示第261 号/以降「厚労省告示第261 号」と略す。)
 水道水質を検査する方法を定める。水質基準は、昭和33 年の水質基準に関する省令から項目の追加や削除、改正を経て現在の省令が定める51 項目に至る。従来水質基準とその検査方法は、いずれも水質基準を定める省令に含め定めていた。しかし平成15 年の水質基準の改正省令は、検査方法を厚生労働大臣が定めるとしたので、上掲の厚労省告示第261 号が定められた。この告示は、臭気を官能法として別表第34 に規定する。

② 上水試験方法(2020 年版、日本水道協会)
 上水(水道水を含む飲用可能な水)の試験方法を、そして厚労省告示第261 号の方法も告示法として掲載する。上水試験方法は明治37 年の「協定上水試験法」がもととなり、昭和36 年に上水試験方法に名称を変え現在に至る。Ⅱ -3 一般理化学 7 項に臭気の試験方法を載せ、告示法のほか臭気強度(TON)などの試験方法を記載する。

2.2 水道水を供給する器具、経路に関する法令等

① 資機材等の材質に関する試験(平成12 年2 月23 日厚生労働省告示第45 号)
 水道施設の技術的基準を定める省令に基づき、資機材等の材質由来の溶出物を分析する「浸出方法及び浸出液の検査方法」を定める。水道施設等の浄水処理や配水過程に使用する管、表層用材料、濾材、粒状活性炭などが、資機材等に該当する。本告示に掲載された表中に臭気を官能法として規定する。

② 水道用資機材の浸出試験方法[JWWA Z 108(2016)]
 上掲の資機材等の材質に関する試験に対応して、水道事業で使用する資機材、薬品などの標準化を目的に日本水道協会が定めた団体規格の一つである。資機材等の材質に関する試験についてより詳細に記載する。規格の8 項に臭気の試験方法を「厚労省告示第261 号の別表第34 に定める方法」 と規定する。

③ 給水装置の構造及び材質の基準に係る試験(平成9 年4月22 日厚生労働省告示第111 号)
 給水装置の構造及び材質の基準に関する省令に基づき給水装置の耐圧試験、資機材等の材質由来の溶出物を分析する浸出方法及び浸出液の検査方法を定めている。末端給水用具、湯沸器類、給水管、配管途中に設置される給水用具などが、給水装置に該当する。本告示に掲載された表中に臭気を官能法として規定する。

④ 水道用器具−浸出性能試験方法[JIS S 3200-7(2010)]
 給水装置の構造及び材質の基準に係る試験に対応して定められた日本産業規格(国家規格)である。給水装置の構造及び材質の基準に関する試験をより詳細に記載する。本規格の附属書17 に臭気の分析方法を官能法として規定する。

図1 水道水質の検査/試験に関連する法令及び規格の関係図

3. 臭気の分析方法

 表1 に前述の法令、規格それぞれが規定する臭気分析方法を示す。分析方法は、いずれも人の感覚を用いた官能法であり、手順の記載がある場合全て「検水100ml を容量300ml の共栓付き三角フラスコに採り、軽く栓をして40 ~ 50℃の温度に加温し、激しく振った後、直ちに塩素臭以外の臭気を調べる。」とされている。ここで「塩素臭以外」とされているのは、消毒薬として意図的に加える塩素を対象から除くためである。

 写真1に共栓付き三角フラスコ、写真2 に試験の様子を示す。
 上水試験方法は臭気の測定方法について原理や注釈を加えることで、厚労省告示第261 号より詳細に記載する。そのほかに臭気強度(TON /官能法)、臭気強度(TON /三点比較法)、カルキ臭の原因となるトリクロラミンの測定法も記載する。参考としてそれぞれの測定方法の概略を表2 に示す。

表1 臭気の分析方法のまとめ
表2 上水試験方法での臭気等の測定方法概略
表3 臭気の種類

4. 臭気の判定基準

 前項で紹介したすべての法令は、臭気の基準を「異常でないこと」とする。しかし、後述する上水試験法方法を除き異常の判断基準を記載していない。厚生労働省厚生科学審議会の平成15 年の資料「水道基準値案の根拠」の「臭気」は、水質基準を「異常でないこととすることが適当である」としているが、異常と判断する明確な基準を記載していない。

 唯一上水試験方法に「臭気の異常の有無は、塩素臭以外の臭気がない場合は臭気の異常はなしと判定し、異常なしと記載する。塩素臭以外の臭気がある場合、異常はありと判定し、続いて臭気の種類を調べる。」(臭気の種類は表3 参照)の記載があり、これを異常の有無の判断基準とするのが妥当と考えられる。

5. 精度の高い臭気分析を行うために

 臭気の分析は、人の嗅覚を測定に用いるため実際の感覚に近くなる。一方、嗅覚の個人差は大きく、僅かな嗅覚異常に日常生活の支障をきたされないため自覚が難しい。

 得られた分析結果の検証が難しい臭気の分析であるが、当社は精度の良い測定のため次のことに留意している。測定者(以下「パネル」という)そのものの適格性を検証する目的から、パネルの選出は環境省告示第63号「臭気指数及び臭気排出強度の算定の方法」に定められた「パネルの選定方法」に従った検査により嗅覚が正常と確認されたパネルから選定することとしている。また分析は上水試験方法に従い5 名のパネルで実施し、過半数が塩素臭以外の臭気を認めた場合、異常ありと判断する。

 ここで注意が必要となるのが、JIS S 3200 及び JWWA Z 108 の方法である。これらの規格は味と臭気を除き測定結果に補正※ 3 をかけた結果で評価できる。臭気は補正するよう定められていないため、補正をかけた項目に比べ評価が厳しくなる。しかし、消費者の生活を支える給水装置は、身近なため水道水に異臭がある場合クレームの対象となり得るので、厳しい基準による評価が、臭気の個人差を安全側に移し安心につながると考える。

※ 3  味、臭気を除きJIS S 3200 の器具試験は、容量の小さい末端給水用具や継ぎ手、バルブの浸出液の規定に従い測定値を補正し割り引く。部品試験及び材料試験は、器具を取り付けた状態の接触面積比へ補正(割り引き)する。
JWWA Z 108 (2016) の部品試験及び材料試験は、器具を取り付けた状態の接触面積比に補正する。

6. まとめ

 臭気分析は機器分析と異なり精度管理が難しいため、測定データの取り扱いや測定方法に十分な注意を払わなければならない。当社は様々な試験の知見を活かし、臭気をはじめとする様々な試験を原理や目的に基づき、これからも正確なデータを社会へ提供していこうと考える。

[参考資料]

1)水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(平成15 年7 月22 日厚生労働省告示第261 号)
2)資機材等の材質に関する試験(平成12 年2 月23 日厚生労働省告示第45 号)
3)給水装置の構造及び材質の基準に係る試験(平成9 年4 月22 日厚生労働省告示第111 号)
4)上水試験方法:Ⅱ 一般理化学・無機物編, 2020 年版. 日本水道協会. 2021.
5) JWWA Z 108:2016. 水道用資機材の浸出試験方法.
6) JIS S 3200-7:2010. 水道用器具− 浸出性能試験方法.
7)厚生科学審議会. 水質基準(案)根拠資料一覧. 厚生労働省. 2003-03. https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/konkyo.html.(参照2021-12-01)
Author 川口 真央Masahiro Kawaguchi
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