ユニケミーについて TOP

発見!家庭の理化学分析 ①  メガネのフレームが折れた! メガネフレーム破損の原因調査

私たちの生活の中で発生する問題や事象を理化学分析を活用することで原因や事実が判り解決することがあります。「家庭の理化学分析」では、日常生活で生じた問題を理化学分析を用いて解決した事例をストーリー仕立てで紹介していきます。

記念すべき第一回目、ケース1「メガネのフレームが折れた! ~メガネフレーム破損の原因調査~」をご紹介します。

1. パパのメガネのフレームが折れた!

 ある日の休日、家族4人で暮らす「ユニ家」で事件が起こった。ケミ男の長男で小学1年生になるケミ太が、ソファーでテレビを見ていたパパ(ケミ男)と遊びたくてじゃれるように突然抱き付いた。すると5年使った愛着のあるパパのメガネのフレームが完全に折れてしまった。

パパ 「何するんだ、ケミ太!急に抱きつくからメガネが壊れたじゃないか(怒)」

 ケミ太 「違うよ。僕は何もしていない!メガネが勝手に壊れたんだ。」

パパは子供の言い訳だと思いつつも、少し間をおいて冷静に言った。

 パパ 「じゃあ、メガネがなぜ壊れたのかユニケミーで原因を調べてもらおうじゃないか。」

こうしてユニ家の親子は壊れたメガネをユニケミーに持ち込み、原因を調査してももらうことにした。

2. 外観観察

 今回の原因調査を担当したのは、ユニケミーのものづくり支援技術部 試験二課 材料グループに所属する女性技術員のY。これまで数多くの破面を調査してきた破面観察のプロフェッショナルだ。

 まずは調査対象となる試料(フレームが折れたメガネ)の外観を丹念に観察する。メガネフレームは高分子材料(プラスチック、PES:ポリエーテルサルフォン※1)である。そして、メガネは丁番可動部の根本で完全に破断している。

※1  PES(ポリエーテルサルフォン):透明・無毒で耐熱性、耐水性、難燃性、耐クリープ性 ※2、寸法安定性に優れた非晶性樹脂
※2  クリープ性:プラスチックに一定の荷重を継続的にかけると、時間とともに変形が進んでいく現象

デジタルマイクロスコープで破断部を確認

3. 破面観察

(1)マクロ観察

まずデジタルマイクロスコープを用いてマクロ的に破面を観察する。破面は右上側破面、左上側破面、下側破面の3ヵ所に分類される。

 3つの部位を確認すると、破損した原因の推定に繋がる特徴的な破面のパターンが観察された。右上側破面の一部には、疲労破壊※3の特徴で起点を中心として弧状に広がる貝殻状の模様を呈するビーチマーク(波跡模様、シェルマーク、貝殻模様ともいう)が確認された。また左上側破面と下側破面には、脆性(ぜいせい)破壊※4の特徴である比較的平坦な面が広範囲にみられた。

※3 疲労破壊:小さい荷重を繰り返し受けて亀裂が徐々に進展し破壊する現象
※4 脆性破壊:塑性変形※5を伴わず急激に破壊する現象
※5 塑性変形:物体に外力を加えて変形させ、その後外力を取り去っても残る変形

右上側破面ビーチマーク

(2)ミクロ観察

 次に走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてミクロ的に破面を観察する。

 右上側破面にはデジタルマイクロスコープでも確認された疲労破壊の特徴的な破面パターンであるビーチマークが観察できる。またごく一部に脆性破壊の特徴で起点側から放射状に広がる河川状の破面パターンのリバーパターンが認められる。さらに弧状に広がる線状模様も確認された。

 また下側破面の破面は比較的平坦となっているが、右上側破面と同様にビーチマークやリバーパターン、弧状に広がる線状模様が確認できる。

A.右上側破面

B.下側破面

4. 確認試験

 破面観察からビーチマークが確認され、小さい荷重を繰り返し受けて徐々に亀裂が進展する疲労破壊の形態を示す一方、急激に亀裂が進展する脆性破壊の形態を示すリバーパターンや比較的平坦な面も確認された。ここで技術員のYは2つの疑問を確認する必要があった。1つ目はミクロ観察で確認された「弧状に広がる線状模様」が疲労を示すストライエーション※6なのか、脆性を示すウォルナーライン※7なのかを判定すること。もう1つは常温で高分子材料に脆性破壊が起きる場合、材質によってはその破面に粘り強さを示す比較的大きなリバーパターンが見られるが、今回の破面は比較的平坦か細かいリバーパターンだった。

 そこで技術員のYは次の仮説を立てた。「メガネを長年使用したため経年劣化等で丁番部のフレームが硬化していた。そして長期に及ぶ頻繁な可動などで初期亀裂が発生しており、そこへ衝撃荷重が加わって完全に破断したのではないか?」 この仮説を検証するため、今回の試料を利用して比較的経年劣化が少ないと考えられるフレーム部を①常温で衝撃荷重を加えて強制破断、②液体窒素に浸漬し模擬的に硬化させて直後に衝撃荷重を加えて強制破断させた場合の2条件について脆性破壊の破面を観察した。

 その結果、常温で強制破断した場合、今回の試料の破断部では見られなかった破面パターンとなった。一方、液体窒素を使用して模擬的に硬化させた場合、今回の試料と同様に比較的平坦な破面と亀裂の進展方向に弧状に広がる線状模様が確認された。この確認試験からメガネの丁番部の破面で確認された「弧状に広がる線状模様」は脆性破壊を示すウォルナーラインで、メガネの丁番部のフレームが硬化していたと推定した。

※6 ストライエーション:疲労破壊した破面のミクロ観察で見られる規則的な縞模様で,疲労亀裂進展に伴い形成される
※7 ウォルナーライン:伝播するクラック先端と弾性衝撃波の干渉によって出来るとされている模様

①常温で強制破断

②液体窒素で強制破断

5. 結論

 以上の結果より「メガネ丁番部は、頻繁な可動や経年劣化により材質が硬化していた可能性が高い。さらに荷重の集中しやすい丁番可動部の根元で繰り返し荷重によって浅い初期亀裂が発生し、その後衝撃荷重により脆性的に破損した」と推定した。

 今回の依頼を担当した技術員のYからユニ家の親子に調査結果が報告された。パパのメガネが壊れた原因は、経年劣化でフレームが硬化しかつ繰り返し荷重で亀裂が入っていたところに、長男のケミ太が衝撃を加えたからであった。元々メガネのフレームは壊れかけていた・・・「ケミ太が壊した」とは言い切れないようだ。

 パパはケミ太に謝り、ケミ太もパパに「ごめんなさい」と頭を下げた。親子は笑顔でYに調査の御礼を言うと、手をつなぎユニケミーを後にして新しいメガネを買いに行った。

■試験報告書

Please enter comment

皆様の記事の内容や分析に関してのコメントをお待ちしております。

※皆様から投稿いただいたコメントは公開させていただいております。
※弊社へのお問い合わせ(非公開)についてはこちらのフォームよりお願いいたします。

は必須項目ですので、必ずご入力ください。

下記リンク先のプライバシーポリシーをお読みいただき、ご同意の上お問い合わせをお願いいたします。

RANKING 人気事例ランキング

TAG LIST

油分赤外分光光度計赤外分光ガスクロEPMAGS/MS尿素JIS K 2247一般廃棄物処理環整95号ごみ質分析危険物判定技報圧縮空気表面観察SEM硬さ古紙パルプ偽装はがき環境リサイクル新聞古紙JIS P 8120染色配合率におい成分コーヒー香り香料加熱脱着法気中の微量成分国際宇宙ステーションISS宇宙飛行士飲料水水パックヨウ素種子島宇宙センター宇宙ステーション補給機こうのとりHTVH2Bグリーン購入法信頼性確保PET特定調達物品森林認証材間伐材軟水硬水おいしい水硬度キレート滴定EDTA金属イオン誘導結合プラズマICP健康マイクロスコープ形態観察ハイダイナミックレンジHDR深度合成金属組織組織エッチング金属組織観察研磨琢磨ダイヤモンドフェノールエポキシアクリル低周波音騒音1Hz-100Hz物的影響周波数補正特性G特性SLOW特性動特性かおりガスクロマトグラフ悪臭物質大気リフラクトリーセラミックファイバーRCF作業環境測定労働安全衛生法総繊維数分散染色法位相差顕微鏡炭素硫黄CS計赤外線吸光法燃焼鉄鋼高周波炉管状炉非鉄金属セラミックFT-IR材質判定ゴム樹脂異物の判定構造解析非破壊微小物の分析マッピングイメージング元素分析元素組成窒素定量フリッツ プレーグルCHN計水素窒素組成式コークス類材料分析試料汚染定性分析試料採取微小試料XRDWDX特性X線波長分散分光法エネルギー分散分光法EDXFE電子銃エネルギー分解能熱分析TG-DTADSC酸化融解結晶化ガラス転移吸熱発熱前処理ボイド塗装プラスチック車両塗装顕微鏡SEM-EDX土壌汚染対策法改正土壌土壌汚染土壌汚染状況調査健康被害形質変更時届出区域土壌環境清浄度JIS B 8392清浄等級同体粒子パーティクルカウンター圧力露点オイルミストオイル蒸気微生物汚染物質イオンミリング前処理装置高倍率観察微小分析断面作製結晶コントラスト面分析油分分析ノルマルヘキサン油含有土壌TPH試験脱脂効果GC-FID四塩化炭素トリクロロトリフルオロエタンAESXPSSIMSTOF-SIMS電子線X線イオン定量分析硬さ試験ビッカースロックウェル鉛筆法モース静的硬さ圧痕動的硬さ引っかき硬さ有機分析炭化水素計法全有機体炭素計元素分析計法フーリエ変換赤外分光分析HPLCLC/MS塗料品密着性耐摩擦性JIS K 5600JIS S 6006揮発性有機化合物VOC希釈質量分析法JIS K 0125メスフラスコクロロエチレン揮散第4類引火性液体危険物確認試験特殊引火物第一から第四石油類引火点アルコール類危険物データベース登録安全データシートSDS表面分析水道器機浸出試験日本水道協会規格JWWA Z 108JIS S 3200-7亜鉛カドニウム六価クロムフェノール類環境大気吟醸香かおり風景100選HS-GC/MS悪臭防止法熱分解GC/MS排ガス空気分析TD-GC/MS有機化合物付着油分脱脂洗浄表面不良試料分解法溶解加圧酸分解マイクロ波酸分解常圧酸分解るつぼJIS B 8392-1固体粒子測定ダイオキシン環境教育作業環境教育技術指導教育コンサルティングSTA 2500 Regulus受託分析ペーパーレスミクロの傑視展速報分析結果SEM写真電子染色ブタジエンABS樹脂樹脂めっき品オスミウム染色ラボタオル吸水度炭素材料鉛筆溶接ヒュームアーク溶接引火点タグ密閉法迅速平衡密閉法ペンスキーマルテンス密閉法クリーブランド開放法JIS K 2265ビフィズス菌ヒトミルクオリゴ糖高分子材料火災の原因調査火災トラッキング火災家庭の理化学分析破面観察デジタルマイクロスコープ報告書例環境分析排水分析JIS K 0102環告64号水質汚濁防止法工場排水健康項目生活環境項目臭気厚労省告示第261 号上水試験方法官能法三点比較法カルキ臭アドブルー尿素水AUS 32品質要件ディーゼル車SCRCO2NOx 窒素酸化物還元剤アンモニア排気ガス浄化軽油尿素濃度アルカリ度不溶解分水道水水道用資機材水道用器具給水装置日本水道協会浸出性能試験JIS S 3200臭気強度TON塩素臭精度管理標準化尿素分析臭気分析JIS K 2247-1 2021環境水河川水地下水公共用水域環告59号環告10号水道法上水道簡易水道水質基準水質検査機関建築物飲料水水質検査業金属腐食局部腐食異種金属接触腐食ガルバニック腐食粒界腐食遊離珪酸含有率測定孔食酸素濃淡電池腐食腐食調査化学物質管理ばく露リスクアセスメント労働安全衛生規則ばく露管理値個人ばく露測定法改正断面試料作製蛍光顕微鏡内部欠陥内部組成可視化技術落射観察蛍光観察製品不具合カルボR耐久テスト純水JIS K 0557:1998ISO 3696-1987蓄電池用精製水規格周期表ドミトリ メンデレーエフ化学の基礎アスベスト石綿アスベスト調査大気汚染防止法石綿障害予防規則GC-MSPT法HS法パージ・トラップ法ヘッドスペース法サーマルデソープション法紅茶の香り成分原子量シャルルドクーロンアイザックニュートン電子殻防災地震災害対策BCP福利厚生電子軌道

CONTACT

生産・製造のトラブルでお困りの方、分析のご相談は
お気軽にお問い合わせください。

Pagetop