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金属腐食解説 -局部腐食の 種類と発生原因について-
1.はじめに
金属は優れた諸性質を有し、様々な部品や構造物等に使用されているが、設置環境や使用条件により腐食が発生する場合がある。腐食が進行すればその性能が低下し使用に耐えなくなり、重大な事故や損害に繋がりかねない。
そして腐食は、労働災害の原因にもなり得る。装置産業である金属、化学、石油、製紙、セメントなどの業界は、高度成長期に設けた生産設備を30 年以上使い続けるとされる。そのため設備に設けた点検通路や作業床、踊り場、階段などの付帯設備も腐食等の劣化が進み、事故に至る場合もある。労働者が立ち入る付帯設備の劣化点検と安全対策が求められる。
平成29 年に厚生労働省が日本アルミニウム協会など12 業界団体に、付帯設備の劣化状況についてアンケート調査を行った。海水、水(蒸気、雨水含む)、酸、粉じんに含まれる腐食性物質による、付帯設備の腐食の存在が回答に挙げられている。そして回答を得た457 事業場の「著しい劣化が認められ放置しておくと危険と考えられる」および「劣化が認められる」付帯設備は、併せて23,670 箇所に及び、身近に潜む危険といえる。
一方、同調査の対象団体において平成19 ~ 28 年の10 年間に報告された全労働災害2,709 件の内、付帯設備劣化による労働災害は、22 件を占め少ないが継続して毎年発生している。
腐食は、進行すると構造物の落下や足場等の破損による転落の様な人的被害のほか、漏水によるシステム全体の機能不全など、懸念される経済的損失も大きいため、原因の究明と対策が重要となる。
本稿は、腐食の中でも特に問題視される局部腐食を取り上げその種類と発生原理を解説する。
2.腐食
腐食は、金属表面のほぼ全面にわたって腐食の形態が認められる全面腐食と、ピンホールなど腐食発生部位を除き一見健全のように思える局部腐食の二つに大別される。
全面腐食は、概ね均一に減肉し残存寿命が見込めるため対応策を講じやすい。一方、局部腐食は一般に侵食が速く想定外の問題に繋がる場合が多い。
次節に次の4 種類の局部腐食について解説する。
(1) 異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)
(2) 孔食
(3) すき間腐食および通気差腐食(酸素濃淡電池腐食)
(4) 粒界腐食
3.局部腐食
3. 1 異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)
表1 のイオン化傾向が小さい貴な金属とイオン化傾向が大きい卑な金属が接触し、後者の腐食が促進される現象をいう。
図1 に炭素鋼とステンレス鋼を接続した場合に生じる異種金属接触腐食の概念図を示す。卑な金属である炭素鋼は、アノードとなって電子を放出すると共に鉄イオンが水中に溶け出す。一方貴な金属であるステンレス鋼※1は、カソードとなって放出された電子を受け取ると共に溶存酸素の還元反応が起こる。その結果、炭素鋼とステンレス鋼の間にガルバニック電池が形成され、酸素が供給され続ける限り、炭素鋼が優先的に腐食され続ける。
写真1 と2 に、異種金属接触腐食の事例を示す。
※1:ステンレス鋼は、表面に不動態皮膜(Crの酸化膜)を形成するため、炭素鋼より貴な金属となる。
同等の材質が接触する場合、写真の鎖は、腐食が軽微である。
異種金属が接触する場合、写真のステンレス鋼に対して卑な金属である鎖( 炭素鋼) は、腐食の進行が著しい。
3. 2 孔食
孔食は、開口部の大きさより深く穿たれ孔状に腐食する現象をいう。一般的にステンレス鋼、アルミニウム合金などの不動態皮膜※2を形成する金属に発生すると知られている。ただし表面が不動態化すれば炭素鋼、銅、亜鉛などでも生じる。
図2 に、ステンレス鋼の孔食の概念図を示す。不動態皮膜は、環境中に塩化物イオンがあると局部的に破壊されピット( 小さな孔) を生じる。ピットの周囲がカソード、ピットの中がアノードとなり、孔食が進展していく。
ピット内はステンレス鋼の溶解による金属イオン、そして金属イオンとの反応により水が分解され生成した水素イオン等の陽イオンの濃度が増し、周囲の塩化物イオン( 陰イオン) を引き寄せる。
次いで引き寄せられた塩化物イオンがステンレス鋼から溶け出した鉄イオンと結びつき塩化鉄を形成する。この塩化鉄が加水分解され塩化水素を生成し、ピット内が酸性化する。
塩化物イオンの濃化により不動態皮膜を修復できないまま、ピット内の酸性化が促され、腐食が進行し孔が深くなっていく。
※2:ステンレス鋼の不働態皮膜は、厚さ数nm の極めて薄いCr の水和酸化物(CrOOH) からなり、表面に酸素が触れると、直ちに形成される。この不働態皮膜の形成により、高い耐食性が得られる。なお1nm は百万分の1mm を示す。
3. 3 すき間腐食および通気差腐食(酸素濃淡電池腐食)
金属と金属、あるいは金属と非金属の近接したすき間が優先的に腐食される現象である。
図3 に、ステンレス鋼とガスケットとの間のすき間腐食の概念図を示す。すき間部は、不働態皮膜の維持のために酸素を消費するが、溶液が入れ替わらないため新たに酸素が供給されず、酸素欠乏により不働態皮膜が不安定化※3し、アノードとなる。対して、通気性の良い非すき間部がカソードとなり、その結果通気差(酸素濃淡)電池が形成される。
金属イオンと水の反応および塩素イオンの流入・濃化により、すき間部は液性が酸性化し不働態皮膜が破壊されてしまう。そして非すき間部より面積が狭いので腐食電流が集中し、すき間部は腐食が促進される。
図4 に、錆コブの通気差腐食の概念図を示す。酸素は、錆コブの下側に届きにくいが、周囲には潤沢に供給される。
そのため錆コブの周囲をカソード、下側をアノードとする通気差電池が形成され、下側に局部腐食が進む。
※3:ステンレス鋼の不動態皮膜は、常に溶解と再生を繰り返して動的平衡を保っていると考えられている。酸化剤(この場合は酸素)の供給を断たれると、不動態皮膜は不安定になり、鉄イオンが溶け出す( アノード反応)。
写真3 に、すき間腐食の事例を示す。
フジツボの付着部は下側の酸素が欠乏し、その周囲に酸素が十分供給されるため、通気差電池が形成され、すき間腐食が進行する。
3. 4 粒界腐食
結晶粒界に沿って腐食が進行する現象である。ステンレス鋼やアルミニウム合金にみられる。
本節はオーステナイト系ステンレス鋼の事例について解説する。
ステンレス鋼は、表面に不動態皮膜( クロムの酸化膜) を形成し、高い耐食性を示す。オーステナイト系ステンレス鋼は、500 ~ 900℃程度に一定時間加熱すると、材料中に含まれる炭素とクロムが反応して結晶粒界にクロム炭化物を析出する。このような状態を鋭敏化と呼ぶ。鋭敏化が進むと、結晶粒界の周囲は不動態化に必要なクロムが欠乏する。その結果粒界に沿って選択的に腐食するため粒界腐食と呼ぶ。
粒界腐食の原因となる鋭敏化を防止するには、1000 ~ 1200℃に加熱して炭化クロムを分解し急冷する溶体化熱処理(固溶化熱処理)を施す。又は材料からアプローチする場合、炭素の含有量を減らす、およびクロムよりも炭素と反応しやすいチタン又はニオブの添加を行う。
4.まとめ
局部腐食の種類とその発生原理を紹介した。腐食に関する知識を深めれば耐食材料の選定や防食処理の立案に役立ち、生産設備および付帯設備の性能維持・長寿命化に繋がる。
当社は断面観察、金属組織観察、EPMA を用いた元素分析、マッピング等の手法を駆使し、母材の成分や不良調査、腐食生成物の分析、設置環境(大気、水質)の調査に至るまで様々なアプローチから腐食原因究明のサポートを行っている。腐食に限らず破損や変色についてもお困りの際は是非ご相談頂きたい。
最後に本稿執筆にあたり、筆者の知る腐食原因調査の事例も当社HP の分析技術情報(Uni-Lab)に公開したので、是非ご確認頂きたい。
https://unichemy.co.jp/unilab/unilab-3853/
[参考資料]
1) 厚生労働省, 都道府県労働局, 労働基準監督署. 付帯設備の劣化による労働災害を防止するために. 2018. 14p.
2) 藤井哲夫. 目で見てわかる金属材料の腐食対策. 日刊工業新聞社. 2009. p.24-63,98-99.
3) 長野博夫. 5 孔食・すきま腐食, 講座. 材料. 1978, 27(294), p.309-314.
4) 鈴木紹夫. ステンレス鋼のすきま腐食. 防食技術. 1979, 28(1), p.38-45.
5) 堅田智洋「. 半分、赤い。」~鉄鋼材料の腐食 防食に関する基礎知識~, 第3回 金属腐食の現象について(その2),シリーズ・技術調査報告. 明日の下水道. 2019, (77), p.28.
6) 黒木信典. 建築設備における配管・機器の診断、リフォーム実務. 総合教育企画. 1987. p.7.
7) 松島巖. 錆と防食のはなし. 日刊工業新聞社. 1993. p.46-49.
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「金属腐食解説 -局部腐食の 種類と発生原因について」を拝読させて頂きました。
3点質問させて頂きます。
1.孔食発生時、不動態皮膜が環境中に塩化物イオンがあると局部的に破壊されるメカニズムや反応は、何でしょうか?
2.塩化物イオン濃度は孔食の発生にどのような影響が有りますか?
3.ステンレス鋼の配管に塩化物イオンを含む液体を流す場合、液体の流速は孔食の発生に影響が有りますか?
大変お手数ですが、教えて頂きますととても幸いです。