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腐食調査の事例紹介「アルミニウム製水桶の腐食調査」

はじめに  

 ユニケミー技報№79の拙稿「金属腐食解説-局部腐食の種類と発生原因について-」で各種局部腐食の発生メカニズムについて解説したが、本記事では生活環境で発生する身近な腐食トラブルとその調査事例について紹介する。

1.トラブル内容と周辺情報の確認

1-1.トラブル内容

 飼い猫の水飲み場として庭に置いてある水桶から水漏れが発生するようになった。

1-2.周辺情報の確認

 腐食調査を行う上で、その製品や周囲の環境、腐食に至った経緯等を確認し、整理することは非常に重要である。腐食調査は、サンプルから原因を示す痕跡を探し出し、腐食の種類を判定し、腐食原因を絞り込んでいく。その際、周辺情報がその判断の助けとなる。それでは、水桶の周辺情報を書き出してみる。

・水桶の材質は、アルミニウムで、10年程度使用している。
・猫の水飲み場になっているので、常に水を張ってあるが、1日で半分程度まで減ってしまう。
・水は水道水で、二三日で入れ替える。
・特に洗っていないので、内壁に藻が生えている。

2.調査内容

2-1.外観観察

 外観観察により、サンプルの状態を確認する。その後サンプルを加工するため、この段階で見逃しのないように注意深く観察する必要がある。

 写真3に示すように、水桶内側には隆起した白色物と藻の付着が多数みられ、外側から観察すると割れが認められる。

2-2.断面マクロ観察

 割れのあった箇所を切り出すと、写真4のようになる。赤線の箇所で更に切断し、写真5のように樹脂包埋、鏡面研磨して断面形態を観察する。観察方向は写真4の赤矢印の方向である。

 割れの箇所は、内側から激しく腐食し、全厚に近い範囲で腐食しているため強度が大幅に低下していたことが、割れの主原因となったと推測される。

 サンプルの断面観察した結果を写真6に示す。

2-3.EPMA分析

 サンプルの断面を拡大観察した(写真7)。濃い灰色にみえる箇所が腐食箇所である。Cu晶出部に沿って粒界腐食しており、腐食部からS及びClが確認され、特にSが多く認められた。

写真7  サンプルの断面形態

 図1に面分析によるカラーマップデータを示す。(分析範囲は、写真7の青枠)
結晶粒界に沿ってCuの晶出が確認される。その周囲では、Al,O,S,Clの成分がみられ、Cuの周囲(結晶粒界)にて腐食しているといえる。貴な(腐食しにくい)Cu晶出部に対し、その周囲は相対的に碑(腐食しやすい)となるため、粒界に沿って腐食する粒界腐食が発生したと考えられる。
(ユニケミー技報№79「金属腐食解説-局部腐食の種類と発生原因について-」の異種金属接触腐食を参照)

図1に面分析によるカラーマップデータを示す。

図1  面分析によるカラーマップデータ

2-4.EPMA分析の追加分析

 前項の面分析により確認されたS及びClの出所を考察すると、Clは水道水に含まれるが、Sの出所がはっきりしない。

 外観観察において、水桶の内側に緑色の藻が多量に付着していたが、藻のような生物にはSが含まれていると予想される。

そこで、緑色の藻の元素分析を行ってみた。

表1 EPMA分析による元素分析結果

 緑色の藻から、Sが少量(0.3Mass%)検出されている。藻の死骸等が、好気性微生物の作用で硫酸イオンに分解され、腐食に作用した可能性が考えられる。

3.調査結果

・水桶は、硫酸イオンや塩化物イオンの作用により、粒界腐食が発生している。
・粒界腐食は、10年程の歳月をかけて残存する肉厚がほとんどないところまで進展していた。それにより水桶の強度が著しく低下して割れが発生し、漏水するようになったと考えられる。
・この水桶は、銅を含有するアルミニウム合金で、結晶粒界に銅が晶出している。「貴な(腐食しにくい)銅」と「相対的に卑な(腐食しやすい)周囲」との間に局部電池が形成され、粒界腐食が発生したと推測される。
・硫酸イオンは、藻などの死骸が好気性微生物の作用により生成されたと推測される。
・塩化物イオンは、水道水から供給されたものと思われる。

4.対策検討

・水桶の清掃を実施し、藻が付着していない状態を維持すれば、硫酸イオンの供給を抑止できると考えられるが、水道水を使用する限り塩化物イオンの抑制は達成出来ない。
・したがって、現状以上に(10年以上)、水桶の漏水を防止するためには、腐食に強い材質への変更が望ましい。

5.その後

・材質をアルミニウムから陶器に変更した。

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