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油分分析の基礎

1.はじめに

 油は動物、植物、鉱物から採取される水と相分離する疎水性の物質であり、食用、燃料用、工業用などの幅広い分野に使用されている。空気、水、土壌、金属部品等が含む油分を定性又は定量する分析は、環境分析や品質管理等として実際に行われている。例えば、圧縮空気中に含まれるオイル蒸気やオイルミストの試験方法及び工場排水のノルマルヘキサン抽出物質検定方法、油含有土壌のTPH(全石油炭化水素)試験、金属部品の脱脂効果の検査などが油分分析の方法として挙げられる(表1)。
こうした公定法などのほか電子天秤を用いた重量法と赤外分光光度計を用いた吸光度法GC-FIDやGC/MS を用いたガスクロマトグラフ分析などの方法もある。油分が含まれる試料の状態や測定したい油分の種類または定量下限により分析方法を選択する(表2)。
今回は赤外分光光度計を用いた吸光度法による油分定量分析を紹介する。

表1 主な油分定量分析の分析例

表2 油分定量の分析例

2.赤外分光光度計を用いた油分の定量分析の原理

 赤外分光光度計を用いた油分の定量分析は、吸光度を利用しLambert-Beer 則に基づく。Lambert- Beer 則は吸光度A、モル吸光係数ε、試料中の油分の濃度c、試料の厚さをl とすると次の式で表される。
A= εcl
即ち、試料中の油分の濃度は、吸光度と比例関係にあり吸光度から求められる。吸光度は、ほとんどの有機化合物と同じC-H 基の3000cm-1 から2700cm-1 ( 赤外分光法は波長の逆数である波数を使用、単位はcm-1) の吸収帯を利用する。そのため試料が油分以外の有機化合物を含む場合、定量結果への影響を考慮しなければならない。

3.赤外分光光度計を用いた油分定量分析の手順

 手順は①抽出溶媒の選択、②標準油の検量線作成、③抽出方法の選択、④溶媒の濃縮及び定容、⑤赤外分光光度計による吸光度の測定、⑥測定した吸光度から油分量を算出の大きく6 つにわけられる。以下、各手順での注意点を紹介する。

①抽出溶媒の選択

 はじめに、有機溶媒を使用して試料から油分を抽出する。2 項から C-H 基の吸収帯の吸光度を読み取るため、それを妨害する同じ吸収が抽出溶媒にあってはいけない。一般に油を溶解するノルマルヘキサンやクロロホルムは、分子構造に C-H 基があるため、油分の測定を妨害する。そこで抽出溶媒は、分子構造に C-H 基のない四化炭素を用いる。また、四塩化炭素の代わりにトリクロロトリフルオロエタン等のフロンを使う場合もある。

②標準油の検量線作成

 吸光度からの油分量を求める場合、標準油を用いて濃度の吸光度をプロットした検量線が必要である。標準油は測定対象とした油を使う。測定対象とする油が準備できない場合、OCB 混合標準物質を標準油としてOCB 混合標準物質換算の油分を求める。

③抽出方法の選択

 抽出方法は試料の形状によって異なる。洗浄抽出、拭取抽出、超音波抽出、ソックスレ抽出の3つから選択する。試料の形状に合わせた抽出法を選択するのが望ましい(表3)。

④溶媒の濃縮及び定容

 濃縮は減圧濃縮、または加熱濃縮を用いる。ただし、揮発性油分は溶媒と一緒に揮散するためこの濃縮操作を行えない。

⑥測定した吸光度から油分量の算出

 ⑤で求めた吸光度より、検量線を用いて油分量を算出する。

表3 抽出方法の例

 以上が赤外分光光度計を用いた油分定量分析の手順である。

4.赤外分光光度計を用いた油分定量分析の注意事項

 微量の付着油分量を測定し金属部品の脱脂効果を評価する場合、試料の保管方法を誤ると思わぬ有機化合物が表面に付着し結果が異なってくる恐れがある。例えば、ポリエチレン製の袋に入れた金属部品から袋の添加剤が微量の付着成分として検出される場合がある。多くの場合、ポリエチレン製の袋は、添加剤に脂肪酸アミドを使用している。
ポリエチレン製の袋に金属部品を入れ、その油分を定量分析した後、定性分析を試みた。その結果は、油分の主成分が脂肪酸アミドとなった( 図 2,図 3 参照)。このように微量の有機化合物の付着を防ぐため、試料は有機化合物を含まないアルミホイルなどで包むのが望ましい。

5.おわりに

 油分の分析方法は、油や試料の状態により異なる。油分量を正確に測定するため、サンプリング及び分析の方法の適切な選択が必要である。当社はお客様のニーズに合った最適な分析方法を提供している。お気軽にお問い合わせ頂きたい。

参考文献

1.JIS B 8392-5:2005 圧縮空気-第5 部:オイル気及び有機溶剤含有量の試験方法
2.JIS B 8392-2:2011 圧縮空気-第2 部:オイルミストの試験方法
3.昭和 49 年 9 月 30 日環境庁告示 64 号:排水基準に定める省令の規定に基づく環境大臣が定める排水基準に係る検定方法
4.中央環境審議会土壌農薬部会土壌汚染技術基準等 専門委員会報告書「油汚染対策ガイドライン ‐鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土 地所有者等による対応の考え方‐」
5.田隅三生:“赤外分光測定法 基礎と最新手法”(2012)㈱エス・ティ・ジャパン
Author 蟹江 庸久Kanie Nobuhisa
Comments みなさんのコメント
近藤絵里子

始めてご連絡差し上げます。
油脂(ココナッツオイル)の吸引による肺炎を疑う症例(犬)がいます。肺の針吸引標本(76x26mmのスライドガラス2枚分程度)からココナッツオイルの同定はできるものでしょうか。また、定性にかかる費用はどのくらいでしょうか。
宜しくお願い致します。

unichemy

この度はユニラボより分析のお問い合わせをいただきまして誠にありがとうございます。
ご相談頂きました肺標本中の成分確認ですが、弊社では対応不可の分析でございます。
元々、生体中には油脂分が含まれるおりまして、類似物質であるココナッツオイル等の油脂を分別して判定する方法がございません。
せっかくご相談を頂きましたが、お役に立てず申し訳ございません。
また別の機会がございましたら何時でもお声掛け頂ければ幸甚でございます。

山崎

モルタルの細骨材を魚の骨と貝殻の骨材に置換する実験を行っているのですが魚の油を完全に除去をしたくコメントさせていただきました。どうかご教授お願いいたします。

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