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理化学分析の基礎知識 -環境分析編- 排水分析

排水分析

(1)水質保全対策

 水質保全の法規制は、水質汚濁防止法が公共用水域へ排出する汚水の許容限度即ち排水基準を定めた排水規制及び総量規制そして生活排水対策を定めます。加えて瀬戸内海環境保全特別措置法及び湖沼水質保全特別措置法が、工場・事業場の排水を規制します。

 水質汚濁防止法は、全公共用水域に有害物質の一律排水基準値を適用します。瀬戸内海環境保全特別措置法は、産業や人口が集中し水質の汚濁が進む瀬戸内海に、瀬戸内海環境保全基本計画、COD の総量削減制度、特定施設等の規制、窒素りんの削減、下水道の整備など進めます。湖沼水質保全特別措置法は、水質汚濁の改善が進まない湖沼の水質保全推進のため、事業計画を作成し対策をたて、水質汚濁の原因施設を規制します。

 そして基本的にいずれも法は、汚水等を排出するとして定めた特定施設等を設置する場合、都道府県知事への届出を定めます。例えば畜産農業の牛房施設、旅館業の厨房施設、洗濯業の洗浄施設などが具体的な特定施設です。特定施設を設けた特定事業場は、全国に26 万以上あり、図1 のとおり旅館業、自動式車両洗浄施設、畜産農業などが多くなっています。なおその約9 割は、1 日当り平均排水量が50m3未満の事業場です。

(2)生活排水対策

 生活排水対策は、下水道や浄化槽の普及、農業集落排水事業等により行われます。図2 の通り2019 年度末における全国の下水道普及率は79.7%(下水道利用人口/総人口)に達しました。そして浄化槽等を含む全国の汚水処理普及率は、91.7%です。一方未だに汚水処理施設が利用できない人口も、8.3%約1,050 万人いる状況です。浄化槽による処理人口は1175 万人であり普及率が9.3%となりました。浄化槽は、全設置基数 7,573,286 基のうち合併処理浄化槽が 3,822,158 基(50%)となり単独処理浄化槽とほぼ同数の状況になっています。

図1 特定事業場の業種等内訳 (環境省の資料から)
図2 汚水処理人口普及状況 (厚生労働省の資料から)

 早期に整備した東京始め大阪市、名古屋市そして海外の大都市ニューヨークやロンドン等の大都市は、合流式の下水道を採用しました。下水道は、都市の課題である浸水防止と生活環境を改善しました。しかし雨水の流入増加に従い雨水排除の能力不足による浸水発生や、雨天時に下水処理場から排出する汚水混合未処理水による公共用水域の汚濁負荷量の増加などの問題を生じます。つまり希釈下水だけでなく、雨水が洗い出した下水管堆積物による汚濁増加の問題です。昭和45 年改正された下水道法は、下水道を水質保全施設として位置付け、公共用水域の水質保全を目的に合流式から分流式による方向に転換しました。現在合流式下水道の割合は、およそ20%です。

 農業集落排水施設は、農村地域の汚水処理の整備を進めると共に、その処理水を農業用水として再利用可能にしました。

 浄化槽は、当初し尿処理だけの単独処理浄化槽が利用されましたが、台所の排水等生活雑排水による水質汚濁に対応できず、前述の通り双方を処理する合併処理浄化槽が普及していきます。平成12 年(2000)に改正された浄化槽法は、平成13 年4 月以降の単独処理浄化槽の新規設置を禁止しました。

(3)排水規制

 排水規制の中心である排水基準は、排出水の汚染状態の許容限度を基本的に濃度で示します。すなわち法は、特定施設を設置する工場及び事業場つまり特定事業場に排水基準の順守を義務づけます。有害物質である人の健康に被害を生じるおそれのあるカドミウム等の計28 物質、即ち健康項目の排水基準は、公共用水域を対象に特定事業場全てに適用します。一方生活環境項目は、平均排出水量が50m3/日以上の事業場に適用します。排水基準は、排水基準を定める省令 (昭和46 年総理府令第35 号)第1 条に、そしてその具体的数値である有害物質の基準(健康項目の基準)を同省令別表第一に、生活環境項目の基準を別表第二に掲げます。有害物質の排水基準設定は、原則として環境基準の10 倍の考え方によります。それらを参考1 の付表1 及び付表2 に示します。

 排水基準は、地方自治体の課す上乗せ基準もあります。上乗せ基準は、水質汚濁防止が不十分と考える水域に法の基準より厳しい、都道府県が定めた排水基準をいいます。例えば愛知県は、BOD及びCOD、SS、ノルマルヘキサン抽出物質量、フェノール類含有量などの項目に、県内を7 水域に分け、特定事業場に応じた上乗せ基準を設けています。


(4)排水の分析

 なお排出水の汚染状態は、参考1 の付表1 と付表2 に示す「排水基準を定める省令の規定に基づく環境大臣が定める排水基準に係る検定方法」(昭和49 年環境庁告示64 号、以下「環告64 号」又は単に「告示」とします)により測定します。測定方法は、その告示に定めるほか、JIS K 0102 からも引用し定めます。

 その「JIS K 0102 工場排水試験方法」は、現在2016 年版が最新の日本産業規格です。表題の「工場排水」つまり事業場の排出水の分析方法を定めるほか、上述の二つの告示の分析方法、更に環境基準を始めとする土壌そして廃棄物の公定法として引用され、広範な水質試料に利用可能な分析方法を定めます。つまり分析を妨害する物質を含むであろうと想定した多種の排水の分析方法を定めます。参考2 にJIS K 0102 が定めた項目と方法を示します。


図3 環告64号規定の分析方法の内訳

 

図4 環告64号規定の分析項目の内訳
図5 JIS K 0102規定の分析方法の内訳
図6 JIS K 0102の分析・測定項目の内訳

 排水分析とはいうもののその方法は、法が定める排水基準と同レベルの濃度の、ほかの水質試料の分析にも十分適用可能です。告示は合計45 の項目を定め、JIS K 0102 は、数えようによりますが78 の項目に延べ229 の分析方法を定めています。大雑把ですが、告示及びJISK0102 に規定された分析方法の内訳そして項目の内訳を図3から図6 に示しました。分析方法は、主に金属分析に用いる原子吸光法、ICP 発光分光分析法、ICP 質量分析法、そして揮発性有機化合物(VOC)の分析に用いるガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量分析法を多く用います。要するに原子吸光法及びガスクロマトグラフ法などの機器分析法が大半を占め、有機物そして金属の項目が多いのが分かります。

参考1 排水基準及びその分析・測定方法

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