ユニケミーについて TOP

水の硬度 あっちの水は苦いぞこっちの水は甘いぞ

1.はじめに

 スーパーやコンビニに行くと、お茶やジュースといっしょに水が並んでいます。インターネットにも水専門の通販サイトがあり、国内外のたくさんの水が売られています。飲み水として、水道水でなく市販の水を手にする人が増えてきているのでしょう。 そんな市販の水のラベルに軟水とか硬度○○mg/L とか書かれているのをご存知でしょうか。我が家の近くのスーパーは棚の値札に硬度を併記しています。 国内の水はほとんどが軟水で、海外は硬水が多いといわれます。市販の水を少し調べてみました(表 1)。ある通販サイトは国内の水を84 銘柄、海外を85 銘柄載せていましたが、総じて国内の硬度が低めで、海外特に欧州に硬度の高い水が目立ちました。 1984 年発足の旧厚生省おいしい水研究会が定義し た条件によるとおいしい水は、硬度が 10~100mg/L となっています。一般に硬度が30mg/L 程度であると 口当たりが良くおいしい水と感じられる様です。 1500mg/L も含むと苦みが強くかなり飲みにくいのではないでしょうか。お腹が弱い人であれば下痢になってしまうかも知れません。 子供のころに「ほっほっほたる来いあっちの水は 苦いぞ、こっちの水は甘いぞ」という童謡を口ずさん でいました。苦い水って何だろう、ほたるを呼ぶための出まかせかなと思っていましたが、あっちの水は硬度の高い水だったかもしれませんね。

市販の水の硬度
表1 市販の水の硬度

2.硬度(Hardness)とは

 なぜ「硬度」というのでしょうか? 氷は硬いけれど、水が硬いとはどういうことでしょう。硬水で豆を煮たり 野菜をゆでると硬くなるからとも聞きます。 しかしボイラーに析出する硬いもの(hardness)に由来するのが本当でないかと思います。この硬いものは、水中のカルシウムやマグネシウムから生じた不溶性の炭酸塩です。ポットやヤカンでお湯を沸かすとできる白い付 着物と同じで、ボイラーの熱効率を下げたり寿命を短くしてしまうため問題となり、硬度と呼び測定されるようになりました。

おいしい水の水質条件(おいしい水研究会資料)
表2 おいしい水の水質条件(おいしい水研究会資料)

3.硬度の定義

 硬度は、水中のカルシウムとマグネシウムの含有量の指標を示し、カルシウムのみをカルシウム硬度、マグネシウムのみがマグネシウム硬度、カルシウムとマグネシウムを合わせて総硬度(硬度)と言います。日本ではそれぞれ炭酸カルシウムに換算してmg/L またはppm で表示します。 硬水は硬度の高い水、軟水はその反対で硬度の低い水です。硬水と軟水の定義は絶対的なものでなく、表3 の ように多くの目安となる数字が示されています。表1 と照合すると、日本は軟水の範囲に入り欧州は硬水が多いと言えます。 水の硬度は、水源の種類に大きく影響され、欧米のように石灰質の地域を長い時間かけて通ってくる場合高く、 日本のように地中の滞留時間や河川が短い場合低めになります。また、一般的に地下水が河川水などより、高く なる傾向があります。 日本は水道水の硬度の基準が 300mg/L 以下と水質基準に決められています。この数値は石鹸の泡立ちに根拠 があります。また、おいしい水の観点から10~100mg/L が水質管理目標値として設定されています。

硬水と軟水の目安 (数値は硬度[mg/L])
表3 硬水と軟水の目安 (数値は硬度[mg/L])

4.硬度の測定方法

(1)キレート滴定

 代表的な硬度の測定方法を二つ紹介します。 硬度の測定方法は、まず、エチレンジアミン 四酢酸(EDTA)によるキレート滴定法が一般 的です。キレートとはラテン語で蟹の爪の意 味で、EDTA がカルシウムやマグネシウムな どの金属イオンを蟹が爪ではさむようにして出来る結 合体を指します。(図1) EDTAはカルシウムやマグネシウムのイオンと1対 1 で反応します。そのためキレート形成に必要な EDTA の量が分かればカルシウムやマグネシウムの 濃度も分かります。しかし、EDTA 水溶液もそのキレ ートも無色透明であり、反応の終点を見分けられませ ん。そのために指示薬を少量添加します。 総硬度は、試料水を約pH10 に調整した後、指示薬 としてエリオクロムブラックT 試薬(BT 試薬)を加え、 EDTA 溶液で滴定して求めます。 BT 試薬はpH10 付近で青色を示します。しかしBT 試薬もEDTA 同様キレートを作るため、試料にカルシウムやマグネシウムのイオンが存在するとキレートを作り赤紫色になります。この試験液に EDTA を滴下すると、 カルシウム等とキレートを作りやすいEDTA がBT 試薬に置き換わり、反応の終点で赤紫色の試験液が元の青色に変化します。

EDTA と金属イオンの反応例
図1 EDTA と金属イオンの反応例
滴定による色の変化のイメージ
図2 滴定による色の変化のイメージ

(2)誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法

 キレート滴定法のほか、ICP 発光分光分析法も硬度の測定方法の一つです。ICP 発光分光分析法は、プラズマ に導き入れた試料中のカルシウム等が発する光を測定して、その濃度を求める方法です。ではプラズマとは何で しょうか。 元素は中心の原子核に陽子と中性子がありその周りを電子が一定の規則に従い飛び回っています。その電子が 原子核の支配を離れ自由に飛ぶ状態をプラズマと言い、とてもエネルギーの高い不安定な状態です。 その中に試料水を噴霧すると、その中の金属元素がプラズマからエネルギーを受け取り高エネルギー状態にな ります。エネルギーの高い状態が不安定なため、金属元素は光を放ち安定なエネルギーの低い状態に戻ります。 その光の波長が元素により異なり、強さが濃度に比例するため、特定の光の強さを測れば目的の元素の濃度が求 められます。カルシウムとマグネシウムに限らず、他の金属元素も同じ試料で同時に測定できる特徴があります。

プラズマのイメージ
図3 プラズマのイメージ

5.水の硬度と健康

 かつて近畿地方の山間の村に、むろ病(筋委縮性側索硬化症)という神経難病とさ れる風土病がありました。脊髄が変性し、脊髄神経支配の筋肉が萎縮し、筋力がなく なる病気です。発病すると余命3 年とも言われました。当時病気の研究のためこの地 域を訪れた医師たちはそこを流れる古座川のあまり清らかで澄んでいる水に驚いたそ うです。調べると、古座川の水がミネラル分の極端に低い純水に近いと分かり、医師たちは流域の家庭に炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムを飲料水に添加することと、食事の内容を改良することを勧めました。交通の便も 良くなった現在、カルシウムを含む食品も簡単に手に入ります。しかし他の地方と往来の少ない時代にそのよう な食品は得られず、川水や井戸水にカルシウムが少ないと、それを使い栽培した農作物も同様に少くなり、摂取 するカルシウム量も減ってしまったと考えられます。1982 年以降この地区に発病が無く、今は忘れられた病気と なりつつあるようです。 近年、たくさんのミネラルウォーターが売られています。中には手軽に必要なミネラルが摂れると謳った水が あります。しかし水だけではミネラル成分を十分に摂取できません。きちんとした食事から摂取するのが基本で す。 それを踏まえたうえで、いろいろな水を使い分け、楽しめると良いですね。

参考文献

・佐藤正、生活と水の研究会:”おもしろサイエンス おいしい水の科学”、 日刊工業新聞社(2007)
・おいしい水を考える会編集:”水道水とにおいのはなし”、技報堂出版(2001)
・岡崎稔、鈴木宏明:”科学で見なおす 体にいい水おいしい水”、技報堂出版(2005)
・安井昌之:”水とミネラル新常識”、同文書院(2000)
・岐阜県教育委員会「高校農業 農業実験」 :
 http://gakuen.gifu-net.ed.jp/~contents/kou_nougyou/jikken/
・株式会社グローバルウォーター「水広場」:http://www.mizuhiroba.jp/
Comments みなさんのコメント
あられピノコ

水を飲んで苦く感じる理由を知りたいのですが?水質の硬度での詳細を知るには??どうしたら良いでしょうか??

unichemy

あられピノコ 様

ユニラボへコメントを頂き、誠に有り難うございます。
ご質問の件に付きまして、以下に回答いたします。

水道水の「苦み(渋み)」の要因として主に挙げられるものは下記になります。

・ミネラル分(水道配管中から溶け出す金属分など)
・有機物(水中の塩素と反応してトリハロメタンを生成するものがあります)

ご指摘の硬度に関しては上記のミネラル分に該当します。
水中のカルシウムとマグネシウムの合計量で算出しますが、苦味に影響するのは
カルシウム濃度よりもマグネシウム濃度と言われています。
(にがりの主成分も塩化マグネシウムです)

マグネシウム濃度のみを定量分析することは可能ですが、苦みを感じるかどうかは
感覚的なものなので、同じ濃度であっても個人差や体調によって感じ方が
変わる場合がある事を予めご留意下さい。

参考となるサイトを以下に掲示しますので、参照いただければと存じます。

https://www.pref.mie.lg.jp/SUISHITU/HP/15533016725.htm(三重県HP)
https://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000160562.html#6(大阪府HP)

以上でございますが、他にご質問等ございましたら何時でもお気軽にご連絡頂ければ幸いでございます。

冷奴

水の硬度を計算する際にカルシウム、マグネシウムの含有量を酸化カルシウムの総量に換算するドイツ式についての質問です。何故、酸化カルシウムという物質を基準に換算するのでしょうか?アメリカ式では炭酸カルシウムを基準として用いるらしいのですが、わざわざ酸化カルシウムという別の物質を用いた理由を知りたいです。

unichemy

冷奴 様
ユニラボへのコメントありがとうございます。
ご質問の件(ドイツ式は何故酸化カルシウムを基準に換算するのか?)ですが、残念ながら根拠を示す文献などを有していない為、ご提供できる知見がございません。
ただ、これは当社の想像ですが、以下のような理由ではないかと推察します。
アメリカ式もドイツ式も、土壌中にカルシウムがどのような形態で含まれているかを算定理由にしているのではないでしょうか。
アメリカは石灰石やドロマイト等の炭酸カルシウムを多く含むため炭酸カルシウム換算と定義し、
一方ドイツは水酸化カルシウムを多く含むため(酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムを生成します)酸化カルシウムを基準に換算する‥・と考えます。
しかし、事実は如何なるものか当社も大変関心があるところでございます。
本サイト訪問者で情報をお持ちの方がみえましたら、ご教示頂ければ幸いでございます。

Please enter comment

皆様の記事の内容や分析に関してのコメントをお待ちしております。

※皆様から投稿いただいたコメントは公開させていただいております。
※弊社へのお問い合わせ(非公開)についてはこちらのフォームよりお願いいたします。

は必須項目ですので、必ずご入力ください。

下記リンク先のプライバシーポリシーをお読みいただき、ご同意の上お問い合わせをお願いいたします。

RANKING 人気事例ランキング

TAG LIST

油分赤外分光光度計赤外分光ガスクロEPMAGS/MS尿素JIS K 2247一般廃棄物処理環整95号ごみ質分析危険物判定技報圧縮空気表面観察SEM硬さ古紙パルプ偽装はがき環境リサイクル新聞古紙JIS P 8120染色配合率におい成分コーヒー香り香料加熱脱着法気中の微量成分国際宇宙ステーションISS宇宙飛行士飲料水水パックヨウ素種子島宇宙センター宇宙ステーション補給機こうのとりHTVH2Bグリーン購入法信頼性確保PET特定調達物品森林認証材間伐材軟水硬水おいしい水硬度キレート滴定EDTA金属イオン誘導結合プラズマICP健康マイクロスコープ形態観察ハイダイナミックレンジHDR深度合成金属組織組織エッチング金属組織観察研磨琢磨ダイヤモンドフェノールエポキシアクリル低周波音騒音1Hz-100Hz物的影響周波数補正特性G特性SLOW特性動特性かおりガスクロマトグラフ悪臭物質大気リフラクトリーセラミックファイバーRCF作業環境測定労働安全衛生法総繊維数分散染色法位相差顕微鏡炭素硫黄CS計赤外線吸光法燃焼鉄鋼高周波炉管状炉非鉄金属セラミックFT-IR材質判定ゴム樹脂異物の判定構造解析非破壊微小物の分析マッピングイメージング元素分析元素組成窒素定量フリッツ プレーグルCHN計水素窒素組成式コークス類材料分析試料汚染定性分析試料採取微小試料XRDWDX特性X線波長分散分光法エネルギー分散分光法EDXFE電子銃エネルギー分解能熱分析TG-DTADSC酸化融解結晶化ガラス転移吸熱発熱前処理ボイド塗装プラスチック車両塗装顕微鏡SEM-EDX土壌汚染対策法改正土壌土壌汚染土壌汚染状況調査健康被害形質変更時届出区域土壌環境清浄度JIS B 8392清浄等級同体粒子パーティクルカウンター圧力露点オイルミストオイル蒸気微生物汚染物質イオンミリング前処理装置高倍率観察微小分析断面作製結晶コントラスト面分析油分分析ノルマルヘキサン油含有土壌TPH試験脱脂効果GC-FID四塩化炭素トリクロロトリフルオロエタンAESXPSSIMSTOF-SIMS電子線X線イオン定量分析硬さ試験ビッカースロックウェル鉛筆法モース静的硬さ圧痕動的硬さ引っかき硬さ有機分析炭化水素計法全有機体炭素計元素分析計法フーリエ変換赤外分光分析HPLCLC/MS塗料品密着性耐摩擦性JIS K 5600JIS S 6006揮発性有機化合物VOC希釈質量分析法JIS K 0125メスフラスコクロロエチレン揮散第4類引火性液体危険物確認試験特殊引火物第一から第四石油類引火点アルコール類危険物データベース登録安全データシートSDS表面分析水道器機浸出試験日本水道協会規格JWWA Z 108JIS S 3200-7亜鉛カドニウム六価クロムフェノール類環境大気吟醸香かおり風景100選HS-GC/MS悪臭防止法熱分解GC/MS排ガス空気分析TD-GC/MS有機化合物付着油分脱脂洗浄表面不良試料分解法溶解加圧酸分解マイクロ波酸分解常圧酸分解るつぼJIS B 8392-1固体粒子測定ダイオキシン環境教育作業環境教育技術指導教育コンサルティングSTA 2500 Regulus受託分析ペーパーレスミクロの傑視展速報分析結果SEM写真電子染色ブタジエンABS樹脂樹脂めっき品オスミウム染色ラボタオル吸水度炭素材料鉛筆溶接ヒュームアーク溶接引火点タグ密閉法迅速平衡密閉法ペンスキーマルテンス密閉法クリーブランド開放法JIS K 2265ビフィズス菌ヒトミルクオリゴ糖高分子材料火災の原因調査火災トラッキング火災家庭の理化学分析破面観察デジタルマイクロスコープ報告書例環境分析排水分析JIS K 0102環告64号水質汚濁防止法工場排水健康項目生活環境項目臭気厚労省告示第261 号上水試験方法官能法三点比較法カルキ臭アドブルー尿素水AUS 32品質要件ディーゼル車SCRCO2NOx 窒素酸化物還元剤アンモニア排気ガス浄化軽油尿素濃度アルカリ度不溶解分水道水水道用資機材水道用器具給水装置日本水道協会浸出性能試験JIS S 3200臭気強度TON塩素臭精度管理標準化尿素分析臭気分析JIS K 2247-1 2021環境水河川水地下水公共用水域環告59号環告10号水道法上水道簡易水道水質基準水質検査機関建築物飲料水水質検査業金属腐食局部腐食異種金属接触腐食ガルバニック腐食粒界腐食遊離珪酸含有率測定孔食酸素濃淡電池腐食腐食調査化学物質管理ばく露リスクアセスメント労働安全衛生規則ばく露管理値個人ばく露測定法改正断面試料作製蛍光顕微鏡内部欠陥内部組成可視化技術落射観察蛍光観察製品不具合カルボR耐久テスト純水JIS K 0557:1998ISO 3696-1987蓄電池用精製水規格周期表ドミトリ メンデレーエフ化学の基礎アスベスト石綿アスベスト調査大気汚染防止法石綿障害予防規則GC-MSPT法HS法パージ・トラップ法ヘッドスペース法サーマルデソープション法紅茶の香り成分原子量シャルルドクーロンアイザックニュートン電子殻防災地震災害対策BCP福利厚生電子軌道FFT 周波数床振動測定保全予防予知保全高速フーリエ変換FFTクラフトジン宇宙GINASTRONAUTS WATER

CONTACT

生産・製造のトラブルでお困りの方、分析のご相談は
お気軽にお問い合わせください。

Pagetop