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揮発性有機化合物(VOC)の試料をメスフラスコで希釈してみたら…
-『VOC 分析を正確にそしてもっと簡単に!』 不可能を可能にするための検証-
1.はじめに
揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)は、揮発性のある大気中で気体状となる有機化合物の総称です。それはトルエン、キシレン、ベンゼンなど多種の物質を含み、塗料、印刷インキ、接着剤などに使われています。
環境省によれば、浮遊粒子状物質や光化学オキシダントに係る大気汚染の状況はいまだ深刻であり、現在でも、浮遊粒子状物質による人の健康への影響が懸念され、光化学オキシダントによる健康被害の届出が多いとされます。VOC は、その光化学オキシダントや浮遊粒子状物質の主な原因物質となっています。大気汚染防止法を始めとする排出基準の制定や自主的排出削減の取り組みなど多くの施策がとられています。
また地下水の環境基準超過は、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンが硝酸態及び亜硝酸態窒素、砒素、ふっ素、鉛に次いで多く確認されており、大気汚染だけでなくVOC の地下水汚染も深刻な問題になっています。
2.測定方法と試料の希釈
水質試料中のVOC の測定は当社でもガスクロマトグラフ-質量分析法などで行われ、その測定方法を規定した代表的な規格がJIS K 0125 です。今回改正されたそのJIS K 0125(2016)「用水・排水中の揮発性有機化合物の試験方法」は、VOC を定量する分析方法をいくつか規定します。
この試験方法は濃度が変化しやすい性質のVOC を対象とするため、無機物など他の物質の方法と異なり注意すべき点があります。例えば、金属イオンなどの定量分析は一般的に試料の希釈を全量フラスコ(メスフラスコ)で行いますが、JIS K 0125 の5.4 項に規定された「ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ法」は「試料中の揮発性有機化合物の濃度が高い場合、全量フラスコなどを用いて試料をあらかじめ希釈すると、揮散による損失のおそれがあるので、5.5(5.5 項は溶媒抽出-ガスクロマトグラフ法)を用いるとよい」と記載し、希釈に注意を与
えています。
一方当社も採用する5.2 項に規定の「ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ質量分析法」は、希釈の規定がなく、前述と同様に揮散損失の可能性があるため、試料に含むVOC の濃度に合わせ検量線の範囲を変更したり、5.5 項への変更などを余儀なくされます。
3.希釈の方法
一般的に試料などの希釈は、全量フラスコや全量ピペット(メスピペット)などを用いて行います。液体であれば希釈したい試薬や試料の一定量を、全量ピペットを用いて全量メスフラスコに量り取り、全量フラスコの定められた体積まで例えば水を注ぎ希釈します。全量フラスコは、標準や試料の正確な希釈そして溶解した試料を一定の体積の溶液にする場合に利用します。
全量フラスコ及び全量ピペットはいずれも一定の体積を量る主にガラス製の器具で、JIS R 3505 に規定があり、ガラス体積計とも称されます。ガラス体積計は、全量フラスコと全量ピペットのほかに、ビュレットなどがあり、化学分析におなじみな道具です。その全量フラスコは、おおよそ5mL から5000mL の体積の製品が市販され、体積の許容誤差により二つの等級クラスA とクラスB があります。
さてもし揮散損失のない希釈法さえあれば、それを利用して正確にそして効率よく分析できるため、なんとか良い方法がないものかと当社社員が色々と議論しています。早速分析室を覗いてみましょう。
<分析室では・・・>
ゆに子「ねぇ、ケミ太。JIS のこの記述なんだけど!」
ケミ太「どうしたにゃあ?」
ゆに子「VOC の分析はメスフラスコを使うと揮散損失があるって ところ。」
ケミ太「そんなこと、当たり前にゃ。試料採取でも気泡が入らにゃいように苦労しているんだから。メスフラスコにゃんかで希釈したら揮散してしまうにゃ。」
ゆに子「そうなのよねぇ。今測定している試料がいつもの検量線範囲を超えちゃってて、検量線範囲をわざわざ変えないといけないのよぉ~(泣)希釈できればいつもの条件でできるのに、なんとか希釈できないかな…。」
ケミ太「もう、そんにゃ無理にゃことを言わずに、範囲を変えて測定しにゃ~。」
ゆに子「うーーん。。」
ケミ太「どうしたにゃ?」
ゆに子「このメスフラスコって、蓋から標線までこんなに空間があるから揮散するんじゃない?」「このスペースを無くせば、何とかなるかも・・・?」
ケミ太「うーん、それはおいらもわからにゃいよ。」
ゆに子「よーし♪あたしやってみるわ!!でも、この試料はいつものように条件変えて測定しておかないと~♪」
-数日後-
ゆに子「できたわ。特製メスフラスコ!」
ケミ太「…にゃんじゃこりゃ?」
ゆに子「メスフラスコの空間を思い切って、少なくしたの。」
ケミ太「精度は大丈夫にゃ?」
ゆに子「問題ないわ。おじいちゃんの工場で作ったJIS クラスA のマーク付よ♪ さぁーはじめるわよ!」
4.特製メスフラスコの検証
この特製メスフラスコの性能を検証するため、次の実験を行いました。次頁図①のとおり市販のVOC23 種の混合標準液を50 倍に希釈して20mg/L の濃度のメタノール溶液を作り、これを検証に用いる評価基準用標準液のいわば親液となる「20mg/L 標準原液」とします。メスフラスコの評価を行う②に示す「評価基準用標準液」は、その20mg/L 標準原液1μL を22mL バイアルにほかの試薬とともに量り取り、密栓して混合し溶解します。
バイアルはヘッドスペース-ガスクロマトグラフ質量分析計に試料を投入するための器で、密栓可能なそして分析計が自動で試料を汲み上げる仕組みをもつガラス製の瓶です。
一方希釈方法検証用試料を、特製メスフラスコと通常のメスフラスコに、③の図に示す方法に従い20mg/L 標準原液を10μL 量り取り、100mL に希釈し準備しました[(A)と(B)]。そして加えてもう一つ、同様に希釈した後に球形のフッ素樹脂を加えた特製メスフラスコを準備しました[(C)]。この3 つの溶液(A)(B)(C)からそれぞれ10μL を、ほかの試薬とともに22mL バイアルに量り取り、密栓して混合し溶解します。
評価基準用標準液を1μL そして希釈方法検証用試料を10μL、それぞれ22mL バイアルに量り取っていますので、22mL バイアルに量り取られた20mg/L 標準原液は、いずれも同量となります。このバイアルをヘッドスペース-ガスクロマトグラフ質量分析計にかけて、VOC23 種の濃度を測定し、評価基準用標準液3 つ(A)、(B)、(C)の結果を比較します。特製メスフラスコの効果がなければ、同じ結果が得られるはずです。
すると検証結果の図にあるように希釈による減少率はおおよそ(A)が10%、(B)が8%、(C)が6%となって、特製メスフラスコを用いれば、揮散するVOC の量が通常のメスフラスコより20%程度少ないことが確認されます。またフッ素樹脂球を加え空間を少なくすると、更に揮散量が少なくなって減少率も40%程度小さくなります。
[検証方法]
[検証結果]
<分析室では・・・>
ゆに子「やったー!減少率が小さくなってるわ~!」
ケミ太「でもまだ100%じゃないってことは、他にも要因があるかもしれにゃいね~。」
ゆに子「そうだ!これクロロエチレン(塩化ビニルモノマー)の標準液の調製につかってみようかな~♪」
ケミ太「ゆに子は本当に分析が好きにゃんだにゃぁ~。」
5.おわりに
揮散損失するVOC は、希釈操作だけでなく、分取操作における温度変動そして溶媒の種類や保管の状態などにも依存し、メスフラスコの空間の影響も比較的大きいとされます。
まだまだ希釈操作に改良の余地がありますが、当社はこのように分析手法の基本に立ち返りより正確にかつ効率的に分析するため日々検討と改善の活動を行っております。
~おしらせ~
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
当社はゆに子の『特製メスフラスコ』を販売しております。
購入を希望される方はお気軽にお問い合わせください。
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