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クラフトジン「宇宙GIN」現ル -ジンの基礎解説とオリジナルジンの紹介-【前編】
このたび当社はクラフトジン「宇宙GIN(ジン)」の販売を開始しました。
宇宙GINは、国際宇宙ステーションの飲料水源泉である種子島の天然湧水「ASTRONAUTS WATER(アストロノーツウォーター)」を100%使用したオリジナルのジンです。理化学分析を生業とする当社にとり初の試みとなる酒造りは、1年超の開発期間とテストマーケティングを経て製品化に至り、新たな事業として2024年6月12日にリフトオフしました。
そこで今回宇宙GIN発売記念稿として、ジンに関する基礎知識とともに商品紹介で宇宙GIN開発ストーリーを綴ります。
第1章 ジンの基礎解説
ここ数年ジンブームと言われています。左党右党を問わず、飲食店や商店、各種メディアでジンを見聞きする機会が多いのではないでしょうか。しかし、ジンがどのようなお酒なのか詳しく知っている人は少ないと思います。そこで前編はジンの基礎として製法や歴史などについて解説します。
1.ジンの定義
ジンは、製造方法の違いによる一般的な分類で表1の蒸溜酒に属します。法的な分類は酒税法にあり、酒類(アルコール分1度以上の飲料)を4種類・17品目に区分けした表2の3.蒸留酒類、⑪スピリッツに該当します。ただしあくまで分類であり、ジンの定義は示されてはいません。
一方、国や地域によっては明確な法的定義があり、ジンを名乗るため一定の要件を満たす必要があります。例えばEU法(Regulation (EU) 2019/787 of the European Parliament and of the Council)は、
(a)農業由来のエチルアルコールをジュニパーベリーで風味付けした蒸溜酒
(b)最小アルコール度数は37.5 %
(c)ジュニパーの味がメイン
と定めます。またアメリカ連邦規則(Code of Federal Regulations title 27-Alcohol,Tobacco Products and Firearms)は、
(a)ジュニパーベリーの香りをメインとし、アルコール度数が40%以上
としています。
日本は前述の酒税法以外に法的な定めが無いため、一般的に「ジュニパーベリーを基本に種々植物で香り付けされたスピリッツ(蒸溜酒)」と欧米に比べて緩く定義されています。
ジンは自由度が高く、工夫を凝らした独自の製法や素材が許容されるお酒です。
2.ジンの要ジュニパーベリー2) 3)
ジンに不可欠なものは「ボタニカル」です。ボタニカルとは植物の種、果実、葉、花などで、その揮発性の香気成分がジンに独特の香りをもたらし、味にも影響します。ボタニカルの選択と配合比でジンの個性が決まると言っても良いでしょう。コリアンダー、カモミール、アーモンドなどのほか珍しい物ではキュウリや抹茶など、一般的に5種類から10種類程度のボタニカルが使われます。近年その種類が増える傾向にあり、50種類近くのボタニカルを使用したジンもあります。
ボタニカルで最も重要なものがジンの語源でもある「ジュニパーベリー」です。
ジュニパー(学名Juniperus communis L.)はヒノキ科の針葉樹で、和名が西洋杜松(セイヨウネズ)です。その球果がジュニパーベリーで、外観がベリーに似ていますがベリーの仲間ではありません。松に似た爽やかで甘味のある香りが特徴で、ジンの他にアロマオイルやハーブティー、ジビエ料理の臭い消しなどに使われます。利尿、解熱、整腸、抗炎症などの効果があるとされ、古代から薬材として使用されてきました。北半球の温帯地域に広く分布していますが、ジンには欧州産(特にイタリア産とマケドニア産)がよく使われます。
前項で述べたとおり、ジンの香りにジュニパーベリーは欠かせず、必須のボタニカルと言えます。(写真1、写真2)
3.ジンの製法1) 2) 3)
スタンダードなジンの製造方法は以下のとおりです。
① | 大麦、ライ麦、トウモロコシ、米などの穀類を糖化・アルコール発酵させて醪(モロミ)を作る | |
↓ | ||
② | コラムスティル(連続式蒸溜器)で醪を蒸溜し、ジンのベースとなる濃度90%以上の高純度エタノールを作る。その一般的な呼称はベーススピリッツで、ほかにニュートラルスピリッツ、原料アルコールなどとも呼ばれる | 図1 |
↓ | ||
③ | ポットスティル(単式蒸溜器)にボタニカルをセットし、ベーススピリッツを再蒸溜して香り付けを行う。香り付けの方法は浸漬法とバスケット法の2種類ある | 図2 図3 |
↓ | ||
④ | 再蒸溜で得られた溜液をヘッド(前溜)、ハート/ミドル(中溜)、テール(後溜)に分画し、製品の原酒であるハートを分取する | 図4 |
↓ | ||
⑤ | 原酒に加水してアルコール度数を調整する |
蒸溜器は上記の他に減圧蒸溜器、ハイブリッド蒸溜器、カブト釜蒸溜器などがあります。また、②コラムスティルを介さずに③ポットスティルのみで製造する方法、濃い蒸溜液を作りアルコールで濃度調整するマルチショットなど製造方法はさまざま。
蒸溜所ごと製法にこだわりがあり、製品を特徴付けます。
4.ジンの歴史2) 3) 4) 5)
(1)世界史
ジンはよく「オランダで生まれ、イギリスで育ち、アメリカで栄光を得た」と言われます。その成句通り、起源は13世紀のネーデルランド(現在のオランダ、ベルギー、ルクセンブルグあたり)にあったイエネーフェル(Jenever、Genever:ジュニパーのオランダ語)という飲み物です。当時の記録にジュニパーベリー入りのワインを胃腸薬として用いたとあります。16世紀には蒸溜技術の普及とともに大麦麦芽やライ麦を使ったジュニパーベリー風味の蒸溜酒製造が盛んとなります。ジンの前身とも言えるこの蒸溜酒は薬用のみならず嗜好品としても広く流通し、1672年にイエネーファ(Geneva:英語読みでジュネヴァ 以降ジュネヴァとする)の名でオランダの辞典にも載ります。そしてオランダ東インド会社の海外進出で販路が拡大し、ジュネヴァが世界中で飲まれるようになります。
イギリスへ渡ったジュネヴァは大ブームとなり、名称もジュネヴァを簡略にしたジン(GIN)へと変わり、1714年にはオックスフォード英語辞典にその名が記載されます。しかし爆発的な流行は「狂気のジン時代(Gin Craze)」とも呼ばれ、低品質なアルコールを添加物と甘味で誤魔化した粗悪なジンが蔓延し社会問題になりました。政府は粗悪品を駆逐するために次々と法規制を打ち出します。そして19世紀に図1のコラムスティルが誕生するとアルコール品質は各段に向上し、安全かつクリヤーでドライ(辛口)な味わいのジンが作られるようになります。これはドライジンと呼ばれ、再び大衆に普及していきました。
その後ドライジンはアメリカのカクテルブームで脚光を浴び、ジンをベースとしたカクテルが世界中で飲まれるようになります。やがてジンと言えばこのドライジンを指すようになり、ジンはスピリッツの代表的な地位を得て現在へと至ります。
(2)日本史
ジンと日本の関係はどうでしょうか。
ジンが初めて日本へ“上陸”したのは江戸時代の長崎出島で、輸入品ではなく出島で暮らす外国人が自ら飲むために持ち込んだと考えられます。
1811年(文化8年)に長崎奉行所通詞目付(通訳兼奉行の監視・補佐役)の茂伝之進が、出島のオランダ商館長へ贈る慰労品としてジンの製造を試みます。商館から借りた蒸溜器を使いアルコールを作る工程は成功しましたが、ジュニパーの樹脂の臭いを除去できず失敗したそうです。さらにブランデーにも挑戦し、こちらは成功し優秀なものができたと記録されています。この茂氏こそ日本の洋酒蒸溜の魁と言えるでしょう。髷を結った侍が未知の南蛮道具で蒸溜酒造りに挑む‥。強い探究心と利他心を持つ先人に敬服します。
1870年(明治3年)に商品としてのジンが初めて輸入されます。横浜の商社が取扱い東京、京阪神地方へと送られました。ホテルバーが主な消費先と考えられます。その後、各地の洋酒製造場でジンの国内製造も始まります。当初は限られた人しか口に出来ない嗜好品でしたが、大正以降輸入ジンやジンを使ったカクテルを嗜む日本人が増えていき、やがて大衆的なお酒として根付きました。
(3)ジンの新時代
近年、自由度の高さを象徴するように、新しいカテゴリーのジンが生まれています。それが「クラフトジン」です。元々ヨーロッパが始まりですが、最近日本でも製造・販売されるようになり市場を賑わせています。クラフトジンには明確な定義がなく、一般に以下のような特徴がありますがそれに縛られるものではありません。
・小規模な蒸溜所による生産
・少量生産、限定生産
・地域色のある素材や贅沢な素材を使用
・特有のコンセプトを持つ
・時間をかけ丁寧に作られている
・高付加価値のボトルやラベル
18世紀イギリスの狂騒、20世紀のカクテルブーム、そして現在新たなカテゴリーの登場により第3次の世界的ジンブーム到来とも言われています。
5.現在の国内ジン状況
産業としての酒類全体及びジンはどのような状況でしょうか。
図5は全国の酒類消費量と成人1人あたりの酒類消費量をまとめたグラフです。
2001年頃から下降の一途を辿り、巷間よく言われるアルコール離れが明らかです。少子高齢化、健康志向の高まり、若者のライフスタイルの変化などが要因でしょうか。
一方ジンに目を向けると、酒類全体とは異なる傾向がみられます。図6は国内のジン出荷量のグラフです。減少傾向から一転2015年以降急激に出荷量が伸びています。貿易でも同様の傾向がみられ、2017年から輸出量、輸出金額ともに伸びています。2021年以降は輸出が輸入を上回り、貿易収支が黒字の状態が続いています。(図7、図8)国内消費は勿論のこと、クールジャパン商品として海外でも珍重されているようです。現在のジンブームがデータから見て取れます。
ジンは苦戦する酒類産業を刺激する商材で、規模はともかく日本経済の明るい話題と捉えられるのではないでしょうか。その火付け役となったのが前述のクラフトジンです。大手メーカーから新興のベンチャー蒸溜所まで次々と参入し、市場を活気づけています。
そして、このたび当社もその末席に預かることとなりました。
後編「第2章 宇宙GINの開発」に続く
参考文献
1)全国小売販売組合中央会.酒類販売管理研修モデルテキスト 第2編酒類の商品知識等.令和5度版,150p.
2)日本ジン協会.ジン大全.G.B.,2019,271p.
3)きたおか ろっき.ジンのすべて.旭屋出版,2020,279p.
4)間庭辰蔵.南蛮酒伝来史.柴田書店,1976年,p.131-135
5)日本和洋酒缶詰新聞.大日本洋酒罐詰沿革史.日本和洋酒缶詰新聞社,1974,p.18-19
6)国税庁課税部酒税課.酒類販売(消費)数量の推移.https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2023/pdf/0033.pdf,(参照2024-05-30)
7)国税庁課税部酒税課.令和3年度成人1人当たりの酒類販売(消費)数量表(都道府県別)ほか.https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2023/pdf/0035.pdf ほか,(参照2024-05-30)
8)日本洋酒酒造組合.洋酒に関する統計(日本洋酒酒造組合統計)洋酒移出数量調査表 平成10年~令和5年(2023年)分.https://www.yoshu.or.jp/files/libs/806/202403061029196618.pdf.(参照2024-05-30)
9)財務省貿易統計.普通貿易統計 品別国別表.https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm?M=01&P=0.(参照2024-05-30)
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