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化学物質管理とばく露のリス クアセスメントの解説

1.はじめに

「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(厚生労働省令第91 号)」が令和4 年5 月31 日に公布された。
その改正は、厚生労働省が令和3 年7 月19 日に報告書を公開した「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」の内容を踏まえており、今後の化学物質に関する管理の在り方を示す。改正は自律的な化学物質管理の導入を主な目的とし、従前から義務付けていた化学物質のリスクアセスメントを拡大、発展させ、作業環境測定を含むさまざまな規則を見直している。
本稿は、製造業などに課せられた化学物質管理が、省令改正を受けて今後どのように変わっていくのかを、ばく露のリスクアセスメントを重点に置き紹介する。

2.化学物質管理の見直し

2.1 法令準拠型から自律的な管理へ

冒頭の「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」によると、化学物質が原因の労働災害は年間450 件ほどあり、そのうち約8 割が法令規制対象外の物質を原因とする。そして状況は、ある化学物質を新たに規制すると、使用していたそれを規制対象外の異なる化学物質に置き換え、結局労働災害の発生に至る。
更にリスクアセスメントの実施率が半数にとどまり、規模が小さな事業場ほど法令順守が不十分となっている。
現行の仕組みは、国がこれら労働災害の情報を参考にする等により危険性または有害性の高い化学物質を個別に指定し、各種規則で具体的な措置を定め、事業者がそれに従う「法令準拠型」である。しかし、この仕組みでは新たな労働災害の発生を防止できない。そこで取り扱う全ての化学物質のリスクアセスメントを事業所自らが行い、ばく露防止措置を選択して実施する「事業者による自律的な管理」の仕組みに移行を進めることになった。

2.2 化学物質規制の仕組み

現行の化学物質規制の仕組みを図1に示す。

図1 現行の化学物質規制の概要

※ 1:ばく露管理値とは、1 日を通じた労働者の平均ばく露がその値を超えてはならない限界値で、日本産業衛生学会の許容濃度
又は ACGIH の TLV-TWA を参考とし、国が今後設定する。

法は、図1 のとおり危険・有害性の程度に応じ有害な化学物質について、製造・使用の禁止、そして特定化学物質障害予防規則等の特別規則による局所排気装置の設置等の措置義務、リスクアセスメント実施などの規制を課す。
それらの一つリスクアセスメントは、図1 の自主管理が困難で有害性が高い123 物質とばく露管理値が示されている危険・有害な551 物質を含む合計674 物質について行う義務がある。そしてそのうち作業環境測定で実際に化学物質濃度を把握して定期的にリスクアセスメントを行うのは123 物質に限られる。
そこで、2.1 節に述べた状況も踏まえ、規制対象外の物質の対策強化を主眼に、より効果的な労働安全衛生確保を目的として、今後5 年を目処に新たな仕組みの規制へと移行する。その仕組みは、SDS 伝達及びリスクアセスメントの実施義務対象物質の大幅増加、濃度基準値設定物質のばく露濃度を基準値以下にする義務、そして自律的な管理を行う実施体制の確立義務を含むとしている。更にそれらの規制は、特定化学物質障害予防規則等の特別規則の廃止を前提にした見直しになっている。想定される今後の化学物質規制のうち、リスクアセスメントの仕組みを図2に示す。

図2 想定される化学物質規制のうちリスクアセスメントの概要

ばく露管理値が示される危険・有害な物質は、従来の特別規則による規制物質を含む合計800 物質が指定される。それら化学物質の濃度を作業環境測定、個人ばく露測定などにより測定、またはツールにより推定してリスクアセスメントを行い、化学物質を管理する。一方ばく露管理値が示されない危険・有害な物質もツールで濃度を推定しリスクアセスメントを行う義務が生じる。そして、リスクアセスメントは、実施時期がリスクレベルに応じて変わる。
リスクアセスメント義務は、対象が2900 物質と大きく増え、そしてその方法も事業者が自ら選択することになる。これまで特別規則が規定していたリスクが高い物質のリスクアセスメントも、従来の作業環境測定に限定せず、測定方法や測定頻度も含めて事業者が検討し実施しなければならない。

3.ばく露のリスクアセスメント手法

 ばく露のリスクアセスメントの流れを図3に示す。図中の①から④について、以下説明を加える。

図3 リスクアセスメントの流れ

①ツール等によるリスク評価
 作業者が呼吸する空気中に有害な物質がどの程度含まれるのかを表す「ばく露濃度」を推定するツールは、さまざまな種類がある。一例が厚生労働省の作成したリスクアセスメント支援ツール「CREATE-SIMPLE」である。化学物質の取扱い条件(取扱量、含有率、換気条件、作業時間・頻度、保護具の有無)からばく露濃度を推定できる。

②実測によるリスク評価
 ツール等によるリスク評価の結果、推定ばく露濃度がばく露管理値を超過した場合実測によるリスク評価を行う。実測の方法は次の③と④の2 種類がある。

③個人ばく露測定
 測定方法が「化学物質の個人ばく露濃度測定のガイドライン」(平成27 年1 月 日本産業衛生学会 産業衛生技術部会 個人ばく露測定に関する委員会)などに
示されている。全作業時間を通して、個人サンプラーにより呼吸域の作業場空気を採取し、個人の化学物質ばく露量を測定する(写真 1,図 4)。測定結果を8 時間の平均濃度に換算し、ばく露管理値と比較する。

④作業環境測定
 労働安全衛生法第65 条に定められた方法である。等間隔に測定点を設け作業
場の有害物の平均的な濃度を求めるA測定と作業者が最も高濃度の有害物に曝露
されると考えられる時間と作業位置で行うB測定により、作業場内の化学物質濃
度を評価する。(図 5)

 なお③個人ばく露測定と④作業環境測定の違いを表1に示す。

図4 個人ばく露測定
図5 作業環境測定
表1 測定方法の違い

4. 事業者の管理体制

 これまでに述べた内容のほか、次のとおり多岐にわたる規制が省令改正により新たに加わる。新たな規制は事業者に、リスクアセスメント結果に基づく化学物質の管理体制の整備と強化を求めている。

(1) 化学物質の管理体制の強化つまり化学物質管理者及び保護具着用管理責任者の選任など

(2) 化学物質の危険性有害性の情報伝達の強化即ちSDS の伝達方法の柔軟化、SDS 記載内容の更新義務

(3) リスクアセスメントに基づく自律的な化学物質管理、例えばリスクアセスメントの記録と周知、労働基準監督署長による労災事故発生事業場の化学物質管理改善措置の指示など

(4) 衛生委員会の付議事項の追加、つまりばく露程度の低減措置やばく露濃度の抑制措置、そしてリスクアセスメントの結果に基づく健康診断に関することを追加

(5) がん発生把握の強化、即ち事業者は所与の条件のがんにり患した労働者がいる場合医師の意見を聞き、業務起因の場合労働基準監督署長に報告義務

(6) 化学物質管理が一定以上の水準にある事業場は、特別規則の個別規制を適用除外

(7) 作業環境測定結果が第3管理区分にある作業場所の措置強化

(8) 作業環境管理等を適切に実施している場合特殊健康診断の頻度を緩和

 上掲の規制のうち、(7) の作業環境測定結果が第3管理区分の事業場に対する改善措置の強化について述べる。改善措置の流れを図6に示す。

図6 改善措置の流れ

(注)労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等1) 13ペー
ジの図を一部変更し転載

図中の①から③について、以下説明を加える。
①作業環境管理専門家は、事業場外部の者で、作業環境測定士や労働衛生コンサルタントなどの一定以上の実務経験を持つ者である。
②作業環境測定を再度行い、第1 管理区分又は第2管理区分に該当すれば改善効果有りと判断する。
③改善が困難もしくは再測定の結果も第3管理区分となる事業場は、個人サンプラーによるばく露濃度測定を実施する。そして測定結果に応じて適切な呼吸用保護具を選定し、作業者に装着させる。その後改善が確認されるまで6ヶ月以内ごとに1回、上記濃度測定を行う。また1年以内ごとに1回、定期的に呼吸用保護具が適切に装着されているか確認しなければならない。これら呼吸用保護具に関する措置は、衛生管理者や安全衛生推進者等の労働衛生に関する知識と経験等を有する保護具着用管理責任者が管理する。

5.さいごに

 今後の化学物質管理とばく露のリスクアセスメントについて紹介した。省令改正は今後の方向性を示したが、具体的な事項の多くが未定である。先々の改正により徐々に整備が進むと考えられる。
 当社は作業環境測定機関として、正確な化学物質濃度測定と化学物質管理に関する最新情報の伝達に努め、国内ものづくり企業の労働安全衛生維持に寄与する責務を負う。作業環境測定や個人ばく露測定などのリスクアセスメント、呼吸用保護具、作業環境改善など、化学物質管理に関してお困りのことがあればぜひご相談いただきたい。

参考資料

1)労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和 4 年 5 月 31 日厚生労働省令第91 号)
2)職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会. 報告書. 厚生労働省. 令和3 年7 月19 日, 2021. 20p.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06355.html(. 参照 2022-11-25)
3)労働基準局安全衛生部化学物質対策課労働衛生課. 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等, 第 146 回安全衛生分科会資料. 厚生労働省. 令和4 年3 月23 日, 2022. 17p.
4)労働安全衛生総合研究所化学物質情報管理研究センター. 化学物質の自律的管理におけるリスクアセスメントのためのばく露モニタリングに関する検討会. 報告書. 労働者健康安全機構. 令和4 年5 月, 2022. 38p.
5)化学物質の個人ばく露測定のガイドライン. 日本産業衛生学会産業衛生技術部会個人ばく露測定に関する委員会. 平成 27 年 1 月. 2015. 48p.

Author 井上 大和Yamato Inoue
Comments みなさんのコメント
アナキンSW

下記のリストについて、ご教示供いただけませんか?

1)下記のエクセルリストを提供いただけませんか?
①自主管理が困難で有害性が高い物質(123物質)
②許容濃度または暴露限界値が示されている危険・有害な物質(①を含む674物質)

2)質問
厚労省のHPなどを見ると、2024年4月施行分234物質(abel_SDS_tsuika_R03.xlsx)、2023年9月施行中667物質 (label_sds_667list_20230830.xlsx)のリストがあります。
上記の123物質は現在234物質に拡大、674物質は667物質になっているのでしょうか?

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