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粉じん中の遊離けい酸含有率測定解説
1.はじめに
粉じんは、土石、岩石、鉱物などを破砕したり研磨、切断したりする場合に発生し、空気中に浮遊する固体の粒子状物質である。例えば次のような作業から発生する。
(a) 鉱山坑内の鉱物の掘削、トンネル工事などの岩石の破砕
(b) 岩石や鉱物の切断や研磨、金属製品の切断、仕上げ研磨
(c) 粉状の原料の混合、粉状鉱石の混合や散布、セメントや鉱石又は炭素原料の袋詰め
(d) 金属のアーク溶接、溶射
粉じんは有害な化学物質を含む場合がある。そして吸入した粉じんの大きさ(粒径)が気管の繊毛などにより体外に排出される程度であればよいが、微細であれば肺の奥まで到達する。そうした場合健康障害を引き起こす。
労働安全衛生法及び粉じん障害防止規則は、「土石、岩石、鉱物、金属または炭素の粉じんを著しく発散する屋内作業場」に定期的な作業環境測定を義務付ける。その測定の対象は空気中の粉じんの濃度及び粉じん中の遊離けい酸の含有率である。特に遊離けい酸含有率は、作業環境の優劣を示す管理区分を決定する重要な測定項目であり、正確な測定が求められる。
そこで本稿は、測定実務者の立場から遊離けい酸含有率測定の概要、手順、注意点などについて紹介する。作業環境測定を委託する方、実際に測定に従事する方の参考になれば幸いである。
2.遊離けい酸と作業の管理
2. 1 粉じんの危険性
粉じんを吸う環境下の作業を長期間続ければ、場合により数十年後に深刻な症状つまり肺が粉じんを排除できず炎症を起こし組織が変化するじん肺を発病する。一度罹患すると治癒せず、治療法もない。
粉じんのうち、遊離けい酸が最も有害な成分である。そして有害性は、遊離けい酸の含有率が増せば高くなる。発がん性等のリスクを抑え健康障害を防ぐため、粉じんの作業環境の状態を評価する指標の管理濃度は、遊離けい酸の含有率に基づき定められる。遊離けい酸は、じん肺の一種であり職業性肺疾患の珪肺を引き起こす物質として知られている。
2. 2 遊離けい酸
遊離けい酸は、おおよそ結晶質シリカを指し、けい素(Si)が酸素(O)と結合した鉱物(SiO2)をいう。石英の他トリジマイト、クリストバライト、コーサイト、ステイショバライトなどの鉱物種が知られている。
石英は一般的な造岩鉱物の一つであり、岩石の主成分として存在する。トリジマイト及びクリストバライトは石英が変化した鉱物であり、コーサイト及びステイショバライトは人造鉱物である。従って作業環境中の粉じんは石英を多く含み、その他の鉱物の含有量が著しく少ない。
2. 3 粉じん作業の管理
前述の危険性があるため、労働安全衛生法(粉じん障害防止規則)及びじん肺法は、粉じんの発生する場所の作業を特定粉じん作業と定め、じん肺の予防及び粉じん障害防止対策を推進する。粉じん作業の管理は、予防が重要であり、作業者の健康管理と作業環境管理及び作業管理を基本とする。健康診断、局所排気や換気装置の設置、湿潤化による発散抑制、作業環境測定による作業環境改善、保護具などの必要な措置を講じる。
2019 年に厚生労働省が粉じんの作業環境測定を実施した事業所に、測定結果(管理区分)に関するアンケート調査を行った。回答を得た事業所のうち、11.1%が作業環境に改善の余地がある第2 管理区分、3.9%が作業環境が適切
でない第3 管理区分に該当した。
3.遊離けい酸含有率測定の対象及び手順
前に述べたとおり粉じんを発散する屋内作業場は、空気中の粉じんの濃度及び粉じん中の遊離けい酸の含有率を対象として作業環境測定を行う。本節はそのうち遊離けい酸含有率の測定手順等を説明する。
3. 1 測定の対象
遊離けい酸含有率の測定は、表1 の粉じんなど三種を対象とする。試料は、表1 の方法により採取し、その実例を写真1、と写真2 に示す。
3. 2 測定の手順
三つの測定対象それぞれにより遊離けい酸含有率の測定手順が異なる。測定手順を図1に示す。図1 の丸囲み数字が示す手順について、説明を加える。
① 最初の手順が採取した試料の定性分析である。定性分析は、試料が遊離けい酸を含むかどうかを判定し、そして含む場合前述の石英、トリジマイトなどの鉱物種を特定する。
② 次手順が定量操作である。定性分析で検出・特定した遊離けい酸の含有率を求めるため定量分析を行う。定量分析の方法は、重量分析方法(りん酸法)とX線回折分析法の二つから選ぶ。石英のみを検出し、堆積粉じん及び原石・原材料が対象の場合、りん酸法が使える。
③ 堆積粉じんの定量分析は、次の試料を準備して行う。
りん酸法:液相沈降法により10 μ m 以下に粒度調整された試料
X線回折分析法:再発じん方法により吸入性粉じんを捕集したグラスファイバーフィルター
準備した試料の分析対象粒経が違うため、りん酸法から求めた含有率はX線回折分析法と同じか高い結果となる。
3. 3 Ⅹ線回折分析装置による測定の実際(堆積粉じんの場合)
当社が実際に実施する堆積粉じんを対象とした、Ⅹ線回折分析装置(写真3)による定性分析及び基底標準吸収補正方法による定量分析の手順は次の通り。
3. 3. 1 定性分析
(1) 試料を目開き75 μ m のフルイに通す。(写真4)
(2) フルイを通過した試料を用い定性分析を行う。
( ア) 試料ホルダーに試料を充填する。
( イ) Ⅹ線回折装置による分析(写真5)
( ウ) 標準試料のX線回折パターンと比較し、遊離けい酸の有無を判定する。(図2)
3. 3. 2 定量分析
(1) 再発じん試料の作製
多段平行板式分粒装置を装着した再発じん装置(写真6)を用いて再発じん
させ、粉じんをフィルターに捕集し、その粉じん量を求める。多段平行板式分
粒装置は、粉じんのうち粒径の大きな粒子を除く装置である。
(2) Ⅹ線回折分析装置による定量分析
基底標準吸収補正法による定量分析を行う。基底標準吸収補正法は、試料に
よるX線の吸収の影響を補正する手法をいう。
( ア) 定性分析の結果を利用し定量用回折線と粉じんの試料の回折線の分離を確認。
( イ) フィルターに捕集した試料の回折線強度から粉じんの石英(クリストバライト、トリジマイト)の質量を求め、フィルターに採取された粉じん量で除し、その含有率を算出する。
4.測定の注意点
(1) 堆積粉じんの試料採取量
堆積粉じんの定性分析は、通常アルミニウム製の試料板(直径25mm、深さ2mm 程度)に粉末試料を充填して測定する。また、粒度調整した試料で分析するため、採取する堆積粉じんの量は数g ~数十g が望ましい。
(2) 有機物を含む試料
粉じんは、油等の有機物が混入する場合X線回折分析を妨げるため、700℃で1 時間加熱処理し、有機物の除去後に供試する。加熱前と加熱後試料のX線回折パターンをそれぞれ図3と図4に示す。加熱処理により明瞭なピークが得られることが分かる。
(3) 石英の妨害物質
石英の定量分析の際、主回折線に重なるか近接する回折線のある妨害物質が影響を及ぼす場合がある。妨害物質は例えば、ムライト、シリマナイト、グラファイト、アラゴナイト、針鉄鉱、ジルコン、硫化亜鉛、硫化鉛、炭化鉄、水酸化バリウム、雲母鉱石などである。影響のある場合、第2 強線あるいは第3 強線を用いる。
5.さいごに
作業環境測定に利用する粉じん中の遊離けい酸測定について、当社が実際に行う操作を中心に紹介した。冒頭に述べたとおり、遊離けい酸は作業環境の状態を把握する重要な測定項目である。当社はこれからも測定技術の研鑽を重ね、作業環境改善に資するよう正確なデータ提供に努めたい。
[参考資料]
1) 日本作業環境測定協会編. 作業環境測定ガイドブック1:鉱物性粉じん・石綿・RCF, 第6 版. 日本作業環境測定協会. 2018. 208p.
2) 厚生労働省, 賃金福祉統計室. 令和元年労働安全衛生調査(労働環境調査). 有害業務の種類、作業環境測定評価(複数回答)別事業所割合及び作業環境測定評価別作業場数割合
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