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試料分解法の紹介 融解法、加圧酸分解法、マイクロ波酸分解法
1.はじめに
金属、鉱石、セラミックス、土壌など固体試料中の成分を分析する手法として、重量分析法、容量分析法、吸光光度法、原子吸光分析法、ICP 発光分光分析法、ICP 質量分析法等がある。しかし固体試料は、溶液を対象とするこれらの方法によりそのまま分析できないため、溶液にする必要がある。この操作を試料分解という。
図1のとおり固体試料の分解法は大きく融解法と溶解法に分類できる。融解法は試料を試薬(融剤)と混合して高温に加熱し、液化した試薬に試料が溶解し、さらに水又は酸に可溶な状態に変換する操作である。溶解法は液体である溶媒に試料を溶かし込む操作であり、常圧酸分解と加圧酸分解がある。試料の主成分、定量元素により分解法を選択するが、主成分が未知の試料はまず常圧酸分解を試す。本稿は、その常圧酸分解による分解が難しい場合に用いる融解法と加圧酸分解そしてマイクロ波酸分解を紹介する。
2.融解法
2.1 融解の方法
融解法は、常圧酸分解により溶解しない試料(鉄鉱石、フェロアロイ、セラミックス等)の溶液化、そして常圧酸分解後の残渣(不溶解分)の完全溶解の二つを目的とする。
使用する融剤により、酸性融解とアルカリ性融解、融剤に酸化剤を混ぜる酸化性融解に大別される。適切な融解操作をするため、融剤およびそれに適したるつぼの選定が重要となる。次節以降に融剤及びるつぼの種類と性質、使用上の注意点をあげる。
融剤は、できるだけ融点の低い試薬を選ぶのが望ましい。操作が容易であることに加え、融解容器の浸食が少ないため、コンタミネーション(汚染)を低減できる。融解操作は、後述の加圧酸分解が分解できない固体試料も溶液化できるが、常圧酸分解と異なり一度に分解可能な試料量が少ない。また融剤を試料重量の10 ~ 15 倍使用するため、分解後に得る溶液の塩濃度が高くなり、高塩対応の装置による分析が必要である。融剤がNa又はK を含むため、アルカリ成分を分析できない。
表1 にJIS 規格(日本産業規格)及びJCRS(日本セラミックス協会規格)より融解条件を転載し示す。
2.2 融剤の種類と性質
(1)酸性融剤
酸性融剤は、二硫酸ナトリウム(Na2S2O7)、二硫酸カリウム(K2S2O7)、硫酸水素ナトリウム(NaHSO4)、硫酸水素カリウム(KHSO4)等を言う。二硫酸塩及び硫酸水素塩を強熱(分解温度300℃以上)すると極めて酸化力の強いSO3 を発生し、試料を可溶性の硫酸塩に変える。酸性融解で得た融成物を水又は酸で溶解後希釈定容し、目的成分を定量する。融剤の融点が低いのでガスバーナーを熱源にする。主に中性またはアルカリ性試料(Fe2O3, Al2O3, TiO2, ZrO2 など)の融解に用いる。そのほかの用途として二硫酸カリウムは白金器具の洗浄にも用いる。
(2)アルカリ性融剤
アルカリ性融剤は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)、四ホウ酸リチウム(Li2B2O7)等を言う。アルカリ性融剤は融点が酸性融剤に比べ高い。Na2CO3は融点が860℃そしてK2CO3は896℃であり、それらを1 対1 に混合すると712℃になって融点が下がり取り扱いやすくなる。最近Na2CO3 と融点が184℃のホウ酸(H3BO3) の混合融剤がよく使用される。中間の融点が使え、ホウ酸塩融解と同様に塩酸可溶性の融成物が得られるので作業性が良い。融剤の融点が高い場合熱源に電気炉を使うことが多い。融剤が水酸化アルカリの場合融点が低いのでガスバーナーを使う。けい酸塩をはじめ、酸性酸化物、塩基性酸化物、高原子価金属酸化物およびそれらの塩類、一部の窒化物、炭化物などの融解に用いる。
(3)アルカリ性酸化融剤
アルカリ性酸化融剤は 融点が460℃の過酸化ナトリウムや融点が334℃の硝酸カリウムを添加したアルカリ性融剤である。融剤の融点が低いのでガスバーナーを熱源に用いる。クロム鉱、ヒ素鉱などの酸化が効果的な試料を対象とする。過酸化ナトリウムの場合白金るつぼを使えない。ニッケルるつぼを使用する場合、温水でるつぼから剥がした融成物に酸を添加し溶解する。
2.3 るつぼの種類と性質
るつぼは高温に耐え、化学反応に強く、安全で、信頼性が高く経済的なだけでなくコンタミネーションを引き起こさないことが大切である。融解は、主に白金るつぼ、ニッケルるつぼ、ジルコニウムるつぼ、アルミナるつぼを使う。実験室によくみかける磁性るつぼは灼熱秤量用に用いられるが、融解にむかない。るつぼは使用する融剤によって使い分ける。
(1)白金(Pt) るつぼ5)
① 酸に強く、塩酸、硝酸および硫酸に安定であり、フッ化水素酸と塩酸、硝酸、硫酸の組み合わせでも冒されず、ケイ酸塩の処理や酸化物の溶解などに適している。しかし、王水、塩酸+過酸化水素の混酸に冒される。
② 炭酸ナトリウム、炭酸カリウムナトリウム、炭酸ナトリウム+ほう酸を融剤とするアルカリ融剤にも、二硫酸カリウム、硫酸水素カリウムを融剤とする酸性融剤にも適している。
長島弘三氏5) は、るつぼの取扱い方を紹介する記事の中で白金るつぼの特徴を述べ、白金るつぼはケイ酸塩の分析に不可欠であるとしている。
③ 水酸化アルカリ、硝酸アルカリ、過酸化ナトリウム、塩素酸カリウムなどの融剤に冒される。
④ 還元されると脆くなるため、還元炎で加熱しない。
⑤ 還元され易い金属化合物(Pb,Sn,Bi,Sb の塩など)を他の有機物と共に強熱しない。
⑥ 先端が白金製のるつぼばさみを使い取扱う。
⑦ 外力に弱く、形が崩れたり、表面が傷つき易い。
(2)ニッケル(Ni) るつぼ5)
① 錆びやすいので恒量となり難く、沈殿の灼熱秤量に使用できない。
② アルカリ融解に用いるが、はがれた錆から融成物にニッケルが混入するため、その影響を受ける定量の場合使えない。
③ アルカリ融解にかなり抵抗力がある。一方過酸化ナトリウム融解にひどく冒され、穴があく場合がある。対策として、炭酸ナトリウムを先ず熔融してるつぼを内張りするか、場合により過酸化ナトリウムを水酸化ナトリウムで薄めて用いる。
(3)ジルコニウム(Zr) るつぼ
① アルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、過酸化物、ホウ酸塩、硝酸塩の融解に対応できる。
② 硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸などの酸に安定である。
③ 高温の濃りん酸と反応する。
④ 低濃度のフッ化水素酸にも冒される。
(4) アルミナ(Al2O3) るつぼ
① 耐熱性、耐食性に優れる。
② 熱膨張率が大きいため、急激に加熱すると破損しやすい。
③ 融液と反応しやすい。
3.溶解法
次に紹介する加圧酸分解法とマイクロ波分解法は、主に常圧酸分解による分解が難しいセラミックス等に用いる。
3.1 加圧酸分解
図2に加圧酸分解容器の構造例を、図3に加圧酸分解容器の外観を示す。表2にJIS規格(日本産業規格)及びJCRS(日本セラミックス協会規格)より加圧酸分解条件を転載し示す。
試料を樹脂製容器(PTFE容器)に取り、分解用酸を加え、撹拌後(試料を白金るつぼにとり、分解用酸を加え樹脂製容器に入れる場合もある)内ぶた(PTFE容器ふた)を付け耐圧容器に入れ耐圧容器ふたなどを取り付ける。耐圧容器を乾燥器にいれ、所定の温度及び時間で加熱し試料を分解する。通常一晩(16 時間)以上加熱する場合が多い。試料により加圧酸分解でも不溶解残渣が残る場合がある。この場合前述の融解法を用いる。分解できる試料量は常圧酸分解に比べて少なく0.1 ~ 1 gである。
特徴として上蓑義則氏4)の報告から引用して次に記す。
① 融解法と比較して一般に分解に長時間を要するが操作が簡単で、アルカリ成分も分析が可能である。
② 密閉容器内で加熱するため、最高250℃程度の高温、高圧の分解が可能になり、分解反応が促進される。
③ 揮発性成分の揮散による損失や、外部からの汚染物質の混入も防止できる。
④ 酸の組合せにより多くの難溶解性化合物も分解でき、塩濃度が低い試料溶液を得られることから高感度分析に利用される。
加圧酸分解での注意点を次に示す。
① PTFE 製容器は、電気絶縁性が極めて高く静電気を帯びやすいので、粉末試料を量り取る際に飛散することがあるので注意する。
② PTFE 製分解容器は使用する酸及び分解条件にて洗浄を行う。
③ 過去に分解した試料が不明の分解容器はなるべく使用しない。(専用化を勧める。)
④ Si を多量含む試料をフッ化水素酸で使用した場合、ガス化し SiF4 がPTFE 製容器に浸透していることがあるため取扱いに注意する。
⑤ PTFE 製容器のふたの変形の恐れがあるため、センターねじを締めすぎない。
3.2 マイクロ波酸分解
3.2.1 手法
加圧酸分解のうち、マイクロ波を用いる手法をマイクロ波酸分解と呼ぶ。JIS R 1675 ファインセラミックス用窒化アルミニウム微粉末の化学分析法6) に「試料の完全分解及び損失、並びに汚染のないことが確認された場合、マイクロ波加熱分解装置を用いてもよい」とされている。 マイクロ波酸分解は、最近WEEE/RoHS 指令による電気・電子機器製品中の有害金属元素分析や環境省告示PM2.5 成分測定マニュアルに採用されている。試料を分解容器に入れ、目的にあった分解用酸を加え、内ぶたをして装置にセットし、分解プログラムを設定して分解する。
3.2.2 原理と注意点
マイクロ波は波長1 m~ 100㎛、周波数300MHz ~ 3THzの電波を言う。このうち2.45GHzを加熱に利用する。
マイクロ波は、金属に反射されるがその他の固体(セラミックスなど)をほとんど透過する特性がある。従ってそのような材質の容器内に入れた水ほか試薬をマイクロ波により直接加熱できる。この原理を利用して、マイクロ波を効果的に吸収する分解試薬の水溶液にマイクロ波を照射し、迅速に加熱する。また容器が密閉に保たれるため、加熱と共に容器内に蒸気が発生し容器内の圧力が上がる。それにより試料に試薬の染み込みを促進し、分解時に試薬と試料の接触面積を広くできる。また圧力が高いため沸点が上がり、開放系の分解と比較してより高温の分解が可能である。
注意点を以下に記す。
① 容器は一般に耐薬品性に優れたフッ素樹脂(PTFE,PFA) を使用することが多いが、耐熱性の問題から連続使用温度を260℃以下に抑える。
② 試薬の蒸発だけでなく、分解反応によって発生するガスにより急激に圧力が上昇し容器が破損する場合がある。分解初期における圧力上昇に注意し、プログラムを作成する。
③ 試薬と接触する表面積を広くするため、塊状の試料は粉末状或いは粒状にしておかねばならない。
④ 粉砕による乳鉢からの汚染に注意する。例えば、ほう素を定量する試料を炭化ほう素乳鉢で粉砕しない。
⑤ 試料量は目安として固体試料の場合0.1 ~ 0.5 g程度である。分解時の挙動が不明な試料の場合0.1 ~ 0.2g程度或いはそれ以下の量から予備試験を行う。
4. おわりに
無機試料は、元素組成や化合形態のため場合により分解されず溶液化が難しい。溶解条件のわずかな差から溶解不十分を招いたり、溶解後も再び析出、沈殿を生じる場合がある。可能な限り試料の情報を収集し主成分を確認したうえで、分解法を選ぶのが大切である。
当社は、多くの経験から試料に合わせた分解法を適切に選択し目的元素の定量を可能にして、お客様のものづくりをお手伝いしています。
参考文献
1) 日本分析化学会編. 現場で役立つ化学分析の基礎. 第2版, オーム社. 2015, 223p.
2) 日本分析化学会編. 現場で役立つ金属分析の基礎:鉄・非鉄・セラミックスの元素分析.
オーム社. 2009, 281p.
3) 日本セラミックス協会. 第11 回セラミックス化学分析技術セミナー講演予稿集.
2017, p.1~14
4) 上蓑義則. 分解法と薬品の取り扱い. ぶんせき. 2008, (2), p.54-60.
5) 長島弘三. るつぼの取扱いについて. 分析化学. 1955, 4, p.395-400.
6) JIS R 1675:2007. ファインセラミックス用窒化アルミニウム微粉末の化学分析方法.
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