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有機分析ってなぁ~に??
1. はじめに
日頃から理化学分析を委託していても、お客様が化学に馴染みがなかったり、苦手であったりすると有機分析を難しく思われているかもしれません。当社の理化学分析技術者でも構造や官能基が少し違うだけでガラッと性質が変わる有機化合物の現象を目の当たりにすると、その複雑さを理解できず驚きます。
一方、現実に有機化合物は私たちのまわりに溢れるほど存在しています。また、工業の様々な場面で活躍し、環境の汚染でもしばしば出現します。そのため、有機化合物の分析の知識習得は、製品や排水などで異常が発生した場合の問題解決の知識を持つことと同様に日常に用いられている有機化合物をうまく利用するため重要です。
2.有機分析を解説する前に
有機分析を解説する前に、有機化合物を説明します。有機化合物は広辞苑(第五版)によると『炭素を含む化合物の総称。以前は有機化合物すなわち動植物を構成する化合物および動植物により生産される化合物を、生命力なしには人為的に合成できないものと考え、無機化合物すなわち鉱物性の物質と区別して有機化合物と言ったが、今日では単に便宜上の区別。炭素の酸化物や炭酸塩などは無機化合物。』とされています。具体的な例は、プラスチック、ゴム、菌類や生物の構成成分、石油などの油全般、石鹸や洗剤中の洗浄成分、お酒の中のエタノール、塗料、様々な香料などです。有機化合物は固体・液体・気体の状態であったり、ときには水に溶けていたりと様々な状態で存在します。そして、これらの有機化合物の分析を総称して有機分析と呼びます。
さて、有機分析の対象(サンプル)はどんなものでしょうか?いくつか例を挙げると、金属製品に付着した異物や泡立つ排水、異臭を放つ製品、着色した製品、劣化したゴムや樹脂など、様々な形態があります。
まず有機分析に限らずそのままの状態で分析できない場合、目的に必要な情報を得るため、それらのサンプルを溶剤などで抽出・濃縮したり、試薬を添加したりします。これらの操作を総称して前処理と呼びます。例えば、ある工場で排水のTOC濃度(Total Organic Carbon, 全有機炭素濃度)が上昇した原因を調査する場合、上昇原因物質を排水の主成分である水から取り出すために様々な前処理を行います。前処理には溶媒抽出や減圧脱水、遠心分離など様々な方法があり、サンプルの状態によってより良い方法を選びます。そして目的にかなう前処理を施し得られたサンプルを次の分析に供します。分析の方法を大きく3つに分けます。
①概略濃度を調べる分析
②主成分を調べる分析
③主成分以外を調べる分析
これらを次項で具体例を挙げながら説明します。
3.有機分析
3.1 概略濃度を調べる分析
有機化合物は広辞苑の『炭素を含む化合物の総称。』のとおり分子構造に炭素を含みます。その炭素の量を測定すれば試料中のおおよその有機化合物量がわかります。代表的な方法を表1に示します。
まず、炭化水素計法は排出ガスや燃焼ガスがどの程度有機化合物が含むかを測定できます。
全有機体炭素計は水中の有機化合物に含まれる炭素濃度を測定できます。主に飲料水に含まれるTOCを測定します。また、関連するBOD※1・COD※2の上昇原因を調査する際その要因が有機化合物であるかどうかの確認に、TOCを測定する場合があります。
元素分析計は、土壌に含まれる炭素濃度測定(同時に水素、窒素も測定可)や石油など化石燃料中の炭素量等を測定し燃焼効率の計算などを行うのに用います。
有機化合物が高温で二酸化炭素等に分解する性質を利用して、550℃から600℃で分解し試料重量の変化から有機化合物量を測定する方法があります。この方法は土壌や無機物中の有機化合物量の測定や樹脂中の無機フィラー以外の成分量の測定等に用います。
これらの有機分析は、簡便な方法であり、より速く結果を得られる特徴があります。
※1 生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)の略称
※2 化学的酸素要求量(Chemical oxygen demand)の略称
3.2 主成分を調べる分析
3.1項は有機化合物の概略濃度を調べる分析(定量分析)を紹介しました。ここでは試料が何か?を調べる分析(定性分析)を紹介します。
まず、表2に有機定性分析の例を2つ挙げます。一つ目のフーリエ変換赤外分光分析はサンプルの構成物質の構造が何かを示してくれます。例として、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリアミド(プラスチック)、鉱物油(油)のFT-IRスペクトルを示します(図1)。なお波長(波数)を横軸に、その波長の信号の強度を縦軸に示すグラフを赤外吸収スペクトルと称します。
これらの赤外吸収スペクトルを比較すると、ポリエチレンと鉱物油では谷の形のピークの位置等が似ていることに気がつきます。
これらはともに…-CH2-CH2-CH2-…の構造を基礎とする化合物であるためです。
ポリプロピレンは
と枝のある構造のため、ポリエチレンと少し違う赤外吸収スペクトルが得られます。
最後にポリアミドは、NHなどが追加され
と前述の3物質と全く構造が異なるため、得られる赤外吸収スペクトルも大きく異なります。このようにFT-IRは、物質固有の形やピークの位置などの特徴を示すため定性分析の有効な手段です。
次に、ガスクロマトグラフ質量分析は、複数の成分からなるサンプルを化合物毎に分離する機能があるため、主成分から微量成分まで幅広い定性分析が可能です。ガスクロマトグラフと質量分析計を組み合わせるこの分析法は、結果(クロマトグラムやマススペクトル)がFT-IRスペクトルと同様に物質固有の特徴を示します。そして24万以上のマススペクトルを集めたデータベースと照合することにより、定性分析が可能になります 。
混合有機溶剤成分を分析すると、ガスクロマトグラフにより例えばヘキサン、トルエン、キシレンなどが図2に示すクロマトグラムのようにそれぞれ分離したピークとなって検出されます。そして分離した成分毎に更に質量分析を行い、マススペクトルを得てそれ ぞれの構造を求めます。分離機能のないFT-IRと比べ、構成成分毎にスペクトルを得るため定性分析結果の信頼性が高くなります 。
3.3 主成分以外を調べる分析
主成分を除く成分が全く特定されていない場合、スクリーニングとして3.2項で紹介したガスクロマトグラフ質量分析による定性分析を利用して成分を特定します。そして必要に応じて適切な前処理を施し表3に示す方法で分析します。ガスクロマトグラフ質量分析が検出しない物質は、例えば高分子量成分や有機塩類などであれば高速液体クロマトグラフ分析や液体クロマトグラフ質量分析を用いる場合があります。ただしそれらの分析法はガスクロマトグラフ質量分析ほど物質の特定能力が高くないので、まず推定される候補をいくつか挙げて、それらの標準物質を同時に分析し比較対照して有無を確認します。
4.応用
これまで試料にどれだけ有機化合物が含まれるか、または試料がどんな種類の有機化合物か調べる手法を説明しました。それとは別に、試料に熱を加え発生するガスを調べる有機分析法があります。サンプルを40℃から600℃まで加熱してその際に発生する分解物やガスを分析します。図3のようにサンプルを加熱炉に入れて発生するガス及び経路内堆積物などをガスクロマトグラフ質量分析計で分析すると、それらが含む有機化合物の情報が得られます。この一連の熱分解からガスクロマトグラフ質量分析までの操作をオンラインで行う分析を熱分解‐ガスクロマトグラフ質量分析法と呼びます。
例えば加熱により気化しない有機塩類や高分子などはこの方法を用いて分析されます。高分子は微小片をそのまま装置に導入し500℃~600℃に加熱して分解時に発生する化合物の定性分析を行い、分子構造を判定します。
5.まとめ
これまで説明した内容をまとめると、図4になります。
私たちが実際に行う分析は図に示したほかにも様々方法を用います。 有機分析が、生産現場や開発現場で起こる『困った!』に対しひとつでも多く解決に導く手段となれば幸いに思います。
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