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低周波音について

1.はじめに

 東日本大震災で甚大な被害を受けた東京電力福島第1 原子力発電所の事故を受け、再生可能エネルギーへの関 心がより高まった。その中でも、原子力に代わり太陽光や風力、地熱など自然エネルギーを利用した発電への期 待は大きい。 しかし、発電コストやインフラ、安定供給など自然エネルギーへの転換には課題も多い。また、さまざまな環 境影響も指摘されている。昨今では、低周波音に関する苦情などに対応するため、平成24 年10 月に施行される 改正環境影響評価法で、環境アセス対象事業に風力発電事業が追加される。 このような背景から、環境省等公的機関から発表された文献を基に、低周波音問題の背景、定義、調査方法及 び評価方法に関して概要をまとめた。

2.騒音苦情の状況

 騒音に係る苦情の件数(図 1)は全体的に減少傾向である。一方、低周波音に係る苦情(図 2)は、旧環境庁 が「低周波音の測定方法に関するマニュアル」を発表した平成 12 年に前年比の 2 倍以上となり、以降増加傾向 である苦情の対象は一貫して工場・事業所が最も多く、近年、風力発電や自然冷媒ヒートポンプ給湯機などに対する 苦情が増加している。

騒音苦情件数の推移
図1  騒音苦情件数の推移
低周波音に係る苦情件数の推移
図2 低周波音に係る苦情件数の推移

(表1)これは環境問題に対応した循環型社会の構築の中で新たな問題になっている。

低周波音に係る苦情件数の内訳
表1 低周波音に係る苦情件数の内訳

3.低周波音とは

 一般的に人間の可聴域音波の周波数は20Hz(ヘルツ)から20kHz程度までとされている。 20kHz以上の音波を、 超音波と呼び、一方20Hz 以下の音波を超低周波音と呼ぶ。 低周波音は超低周波音に知覚されない領域の音を加えた概ね1Hz~100Hz までの周波数域をいう。この周波数 域の波長は 1 気圧、15℃の大気中の音の速度が約 340m/s のため、1Hz が 340m、100Hz が 3.4m と長くなる。 長い波長の音は減衰しにくく、低周波の影響が広い範囲に及ぶ可能性がある。

4.低周波音の影響

 低周波音の影響は、「物的影響」と「心理的・生理的影響」に大別される。

4.1 物的影響

 物的影響は、音を感じないのに窓や戸など建具等が揺れる・がたつくなどの現象である。物的影響が発生する 場合は、20 Hz 以下に卓越周波数成分をもつ超低周波音による可能性が高い。ただし、低周波音だけでなく地面 振動によっても発生するため、両方の可能性を考えておく。 建具などは周波数が低いほど小さな音圧レベルで影響が現れる。さまざまな条件や状況などにより大きく異な るが、がたつきやすく、揺れやすい建具は、およそ5Hz で70dB(デシベル)、10Hz で73dB、20 Hz で80dB 程度 からがたつき始めるという実験結果が得られている。

4.2 心理的・生理的影響

 心理的影響は、睡眠障害や気分がいらいらするといった現象であり、生理的影響は頭痛、吐き気、耳なりなど が挙げられる。これらの影響の原因は、特定困難な場合が多く、低周波音又は低周波音以外の二つが考えられる。 このうち、20Hz 以下の超低周波音により発生する心理的・生理的影響は物的影響も併発していることが多い。 また、建具等の振動による二次的な騒音の発生もある。可聴域の低周波音の場合、非常に低い音が感じられるこ とによって心理的・生理的影響が発生していることが多い。 心理的・生理的影響をもたらす低周波音のレベルに明確な結論は得られていない。

5.低周波音の発生機構と発生源について

 低周波音は自然界でも風の動き、水の流れなどから発生している。可聴域の低周波音は、機械や構造物が通常 の稼動状態でも発生するが、超低周波音は、機械・構造物が正常な稼動状態になく、何らかの異常な稼働状況に ある場合に多く発生する。 低周波音の主な発生機構と発生源を表2 に示す。

低周波音の主な発生機構と発生源
表2 低周波音の主な発生機構と発生源

6.調査の手順

6.1 予備調査

 調査・測定する場合、まず目的を明確にする。測定の目的は主として苦情対応、環境影響評価などの現状把握、 対策及び発生原因の解明、対策効果の確認などが挙げられる。 低周波音の苦情が寄せられた場合、その内容を具体的に予備調査*する必要がある。20Hz 以下の音圧を含む超 低周波、可聴域を含む騒音、振動によるものか見極める必要がある。できれば、苦情者から直接話を聞き、現地 で調査すると具体的な情報を得られやすいと考えられる。 当社などの専門測定機関とともに予備調査を行えば、簡易的な機器測定によって有用な情報を得られる場合が ある。

(1)苦情の内容把握

 物的苦情は20Hz 以下の超低周波音か地面振動が原因の可能性があり、心理的・生理的苦情は20Hz 以下の超 低周波音と 20Hz 以上の低周波による可能性が考えられる。超低周波音による建具等の振動から二次的に発生 する騒音に悩まされる場合がある。

(2)発生状況の把握

 発生状況把握のポイントを表3 に示す。

低周波音の主な発生状況の把握のポイント
表3 低周波音の主な発生状況の把握のポイント

6.2 低周波音等の測定

 低周波音の測定は、風による影響が大きく、その影響をとりのぞくことが難しい。 風が吹いている場合は、レベルレコーダによる音圧レベルのモニターを行い、風雑音の影響をチェックしなけ ればならない。風が強い時は、正確な低周波音のデータが得られないので、風がおさまるまで低周波音の測定を 中止する。

(1)低周波音圧レベル計

 低周波音の測定は、低周波音圧レベル計を三脚等に設置し、マイクロホン高さを地上 1.2~1.5mの高さに固 定する。マイクロホンに、ウインドスクリーンを装着する。 測定時に風雑音によって見かけ上の音圧レベルが不規則に変動する場合、低周波音圧レベル計を地上に置け ば、風雑音の影響をいくらか軽減できる。 音圧レベルの録音は、周波数補正特性をG 特性にする。 周波数分析を行う場合や、持ち帰ってから分析を行う場合、低周波音圧レベル計の周波数補正特性を平坦特 性にし、動特性をSLOW 特性(時定数は1 秒)として録音する。

(2)データレコーダによる録音

 多点同時測定を行う場合や詳細な解析を行う場合、低周波音・騒音・振動を同時に測定する場合、録音を行う。 また、大きく変動する低周波音や間欠的、衝撃的な低周波音の場合、録音を行い、持ち帰って周波数分析をする ことが望ましい。 録音は、低周波音圧レベル計の出力をデータレコーダの入力に接続し、低周波音のレベル波形をレベルレコー ダでモニターしながら行う(図 3)。録音を始める前に、測定年月日,開始時刻、測定点番号、測定機器の番号、 測定者名等をアナウンスし、低周波音圧レベル計の内部校正信号を1 分程度録音する。 G 特性音圧レベルの場合、低周波音圧レベル計の周波数補正特性を G 特性にして録音する。周波数分析を行 う場合、低周波音圧レベル計の周波数補正特性を平坦特性とする。 低周波音の録音にあたっては、入力信号がオーバーしないように低周波音圧レベル計のレンジを設定する。

低周波音・騒音・振動・の同時測定及び録音状況
図3  低周波音・騒音・振動・の同時測定及び録音状況

6.3 評価方法

(1)物的苦情に関する評価方法

 1) 低周波音の1/3 オクターブバンド音圧レベルを表4 と比較し、参照値以上であれば低周波音による苦情の 可能性が考えられる。

  2) 低周波音の 1/3 オクターブバンド音圧レベルが参照値未満の場合には、地盤振動などについても調査を行 い総合的に検討する。

低周波音による物的苦情に関する参照値
表4 低周波音による物的苦情に関する参照値
(2) 心身に係る苦情に関する評価方法

 1) G 特性で92dB 以上であれば、20 Hz 以下の超低周波音による可能性が考えられる。

 2) 低周波音の 1/3 オクターブバンド音圧レベルを表 5 と比較し、参照値以上であれば低周波音の可能性が考 えられる。

低周波音による心身に係る苦情に関する参照値
表5 低周波音による心身に係る苦情に関する参照値
(3)その他

 上記(1)、(2)のどちらにも当てはまらなければ、低周波音問題の可能性は低い。その場合、100Hz 以上の騒音 や地盤振動などについても調査を行い総合的に検討する。

(4) 留意事項

 参照値の適用にあたっては、次の事項に留意すること。 (平成16 年6 月 環境省「低周波音問題対応のための『評価指針』」5 項より抜粋)

低周波音留意事項

7.おわりに

 低周波音問題は、実態に不透明な点が多い。規制基準が設けられておらず、特に心理的・生理的影響の判断が 難しい状況である。また、多くの環境計量証明事業所の測定実績が極端に少ないことから、情報の収集にも苦慮している。 しかしながら、今後も注目すべき問題であり、苦情などに対応する事前措置として、低周波音発生が懸念され る設備や工場の敷地境界などで、現状把握のための低周波音測定をおすすめしたい。

*本著での「予備調査」とは、旧環境庁「低周波音の測定方法に関するマニュアル」(平成12 年10 月)の図4.1 で、調査の目的、発生状況の把握(聞きとり調査)、測定計画の立案、予備調査をいう

引用文献

1) 旧 環境庁(現 環境省): “低周波音の測定方法に関するマニュアル” (平成12 年10 月)
2) 環境省:“低周波音問題対応のための「評価指針」” (平成16 年6 月)
Comments みなさんのコメント
宇山靖政

(1)物的苦情に関する評価方法
の表では、5Hzより下が無いのですが、
0.8Hzでの音圧が、77.28dBでしたが、
この場合は、どの様に考えるのでしょうか?

また、超低周波音の計測は、0.01Hz辺りから計測する必要があると思います。
理由は、大型風車での超低周波音で音圧が最大になるのは、0.5Hz辺りですから、1Hz~20Hzを計測したのでは、強烈なエネルギーを持つ部分が抜け落ちます。

以上2点に関して、貴社の考え方を述べていただければ幸いです。

計測機材と解析機材は次のものを使いました。
精密騒音計NL-62と機能拡張プログラムNX-42EX、波形収録プログラムNX-42WR、
(578000円+70000円+100000円、合計で748000円
振動レベル計VM-55と波形収録プログラムVX-55WR (440000円+100000円、合計で54万円)
ビデオカメラ 6万円
PC 20万円
波形解析ソフトDADISP 41万7,900円
Waveletモジュール 98000円
多変量解析モジュール 98000円
騒音振動解析モジュール 98000円

unichemy

UNILABへのご訪問、ご質問ありがとうございます。

当社独自の見解ではございませんが、参考までに『騒音・振動測定Q&A集(第2版)』一般社団法人 日本環境測定分析協会
の「質問74:低周波音の評価について」の回答を以下に引用いたします。

【回答】
環境省の「低周波音問題の手引書」では「心身に係る苦情に関する参照値」を定めてい
ますが、これはあくまでU低周波音問題が発生したときの苦情に対する対応をとる必要を
判断する為の参照値Uであり、この値を超えるときに心身に係る苦情が発生することが多
く、その時の閾値として実態調査の上で決めています。したがってこの値を超えれば、
心身に影響があるとして疫学的な判定基準として裏づけを持って定めたものではありま
せん。低周波音に対する感覚の個人差は非常に大きく、その心理的反応、生理的反応は
大きく異なります。また、先進各国での研究でも感覚閾値に対しては日本と同様のレベ
ルですが、心理的影響や生理的影響に関しては明確に判断している例は少ないのです。
また、心身に関する影響といっても、低周波音に対する反応も「いらいらする、迷惑だ」
から心理的圧迫感、睡眠障害、生理的影響までその反応は様々です。また、50Hz以上に
なれば可聴領域の音になり、バックグラウンドの騒音の影響も出てきます。特に 80Hz
近くなれば、バックグラウンド騒音でも参照値を超える場合がよく見られますので、機
械的に参照値を超えたからといって、直ちに心身への影響の可能性があるとは判断でき
ません。参照値は心身への影響を判断する為の基準ではなく、心身に係る苦情に対応す
るための目安として考えられたものです。
低周波音問題に関しては、かなり低いレベルの音でも苦情が発生する場合も見られ、
その疫学的な研究でも未解明な部分も多く、誤解に基づく苦情や、苦情の原因も他の疾
患などに原因がある場合も考えられます。したがってその音の発生状況、苦情者の社会
的環境など総合的な判断が重要となってきます。

また、低周波に関しては、環境省のホームページに
『風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務報告書』
『風力発電施設から発生する騒音に関する指針(平成29年5月)』
『風力発電施設から発生する騒音等測定マニュアル(平成29年5月)』
『風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会』
などが掲載されており、こちらに参考となる有益な情報があるかと思います。

よろしくお願いします。

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